第16話「森くんが我が家にやってきた」1/2
推しと一緒に家に帰るなんて夢みたいだ。
「ただいまー」
ドアを開けて家に入る。そのあとを森くんがついてくる。
「お邪魔します」
一礼しながら入る森くん。
礼儀正しい!
そして、推しが我が家にやってきた!
感動!
浮かれていると、リビングのドアが開き、
「お兄が友達連れてきた! 珍しくない?! しかも金髪!」
ミーハーなノリで出てきたのはネネ。
オレはげっそりしながら、
「妹のネネ。うるさいから気にしなくていいよ」
「ちょっとーその紹介の仕方ひどくない?」
「・・・あ、ツインテール!」
「え?」
森くんの何か思い出したような声に、ネネと声が被る。
「バスケの練習の時に女子に呼び出されてたじゃん。一緒に歩いてたツインテールのかわいい女の子は彼女なのか~? て」
「・・・」
森くんと見つめ合い、
「あー、そういえばそんなこと聞かれた」
離れた場所で話してたけど、結局聞かれてたんだ。
「えー! なにそれ気になる! ネネがお兄のかわいい彼女ぉ~! 」
ぷぷぷと吹き笑いしながら面白がる、ネネ。
「この前一緒にコンビニ行った時にたまたま見られたんだよ。はい! この話はおしまい!」
無理やり話を切り上げてリビングへ行き、母さんに声をかけたあと地下室のトレーニング室へと逃げる。
「ネネ、ホントテンション高いから相手しなくていいよ」
「・・・」
「森?」
振り返ると森くんはいろいろ置かれているトレーニング機材を目の前にテンションを上げていた。
「すげー! スポーツジムとかに置いてあるものと変わんない! あ、中学にもあったやつだ」
キョロキョロ見回して落ち着きがない。
「父さんが最初ハマりだして揃えたんだけど、一番上のタツ兄もハマりだして増やしたってところ」
「へー! ボルタリングまである!」
「・・・森も体鍛えてるの?」
「バスケの一環で。中学の時は練習のひとつだったし。結局、いくら練習しても体がしっかりできてないとなんにもならない」
「そ、そっか」
なんか、タツ兄や父さんみたいなこと言ってる。
「さっそく使っていい?」
「いいよ、今日は大学に泊まるってタツ兄言ってたから、気にしないで使って」
「やった!」
森くんはその場でワイシャツを脱いで上半身裸のまま鞄の中をあさりだした。
「えーと、Tシャツ・・・」
自主練の時も着替えたりはするけど、ほとんど一緒に着替えるから森くんの裸なんて気にしたことなかった。
が、今は目の前に推しの上半身の裸が・・・。
両腕にTシャツの日焼け跡があるだけで全体的に白い。
部活で鍛えてたというだけあって、細身なのに引き締まってがっちりしてる。特に腹筋が割れてるのが鞄を持っていても見える。
両腕だってがっちりしてて、 細マッチョほどじゃないけどそれなりに筋肉がある。
脱いだらすごい奴だ・・・。
タツ兄や父さんの体はどう見ても鍛えすぎだけど、森くんは男として理想の『ちょうどいい』体。
「んー・・・替えのTシャツ忘れた」
森くんの声に、ついついガン見にしている自分に気づく。
いやいや、男同士だから別にいいんだけど、さすがに見すぎた!
「あ、オレのでいいいなら部屋から持ってくるよ」
「マジで? 助かる」
「うん、ちょっと待ってて」
笑顔を貼り付けて部屋を出た。
森くんを裸のまま待たせるわけにはいかない。猛ダッシュで自分の部屋へ行き、適当にTシャツをクローゼットから引っ張り出して地下室に戻る。
「お待たせ! これ着て」
「サンキュ。これって・・・」
Tシャツを受け取りながら、壁のポスターに指さす森くん。
「・・・タツ兄と父さん」
「すげー」
なんだろ、この居づらい気持ち。
身内のナルシストなポスターを友達に見られるってけっこう恥ずかしい。
いや、マジで恥ずかしい!
「あ、やべ、テーピングが取れかかってる」
「え?」
恥ずかしさのあまり目を背けてたけど、森くんの声につい顔を上げると、さっきは鞄で気づかなかった肩から胸にかけての部分にテーピングが不格好に貼られている。
「汗で取れるんだよなー。いつもはそのまま接骨院でやってもらったり、家に帰るから別にいいんだけど」
「テーピングならあるよ、使う?」
「マジで? 助かる。ていうか、さっきからサンキュ」
「タツ兄がよく使ってるから」
と言っても、めったに出入りしない部屋だからどこにあるか知らないけど、部屋を見回せばだいたい検討はつく。
部屋の隅っこにクローゼットを見つけ、開くとゴチャゴチャといろんな物が収納されていた。(収納とは呼べないけど)
タツ兄らしい。
ゴチャゴチャの中にテーピングが入った箱を見つけ、森くんに渡した。
器用にテーピングを貼りなおす森くん。
それを見ながら、オレは胸が痛んだ。
「なんかごめん」
「ん? 何が?」
「完全に肩、完治してないのに、バスケやろうなんて・・・」
「今更?」
「!!」
「自主練始めた時にさんざん聞いたし。もう今更じゃん?」
「そう・・・だけど」
「立川ってけっこう気にするよな。もっと切り替え速い奴かと思った」
「・・・よく思われるけど、言われたくない」
自分でも気にしてることをサクッと言われ、傷ついた。
見えない血が口から・・・。
「森だって、けっこうはっきりモノ言うよな。デリカシーがないっていうか」
「・・・」
「・・・」
険悪な空気が流れる。
ヤバイ、ケンカしたいわけじゃないのに、なんでこんなことに!
話題、話題を変えよう!
何か、何か別の話題を・・・!
必死に面白そうな話を探していると、Tシャツに着替えた森くんがオレのワイシャツの裾をペラッとめくる。
「え?」
「全然普通だ」
「何が?」
「しかも・・・これ」
そう言って、森くんはオレの横腹の肉をつまんだ。
「!!」
「ありえなくない? こんな立派なジムが家にあんのに」
「またかよ! 人の肉つまみすぎ!」
森くんの手を払う。
「いーじゃん、減るもんじゃないし」
「そーゆう問題か! つーか、トレーニングするんだろ」
ニヤニヤする森くん。
嫌な予感がすると思ったら、
「隙あり!」
「!!」
またオレの横腹の肉をつかむ。
「くそー、ならこっちはこうだ!」
オレも負けじと、森くんの横腹に手を伸ばし、つかむ肉がないのはわかりきってるからくすぐることに。
「くっ・・・」
体をひねって耐えようとする森くんだけどだいぶ応えてるみたいだ。
「降参すれば?」
「あはは・・・だ、誰が・・・降参・・・するか」
笑い交じりの森くんはもう片方の横腹の肉をつまもうとするから、阻止しようと手でブロックしたらブロック返しされた。
「やめろよ」
「そっちこそ」
お互いの手を握り合って、睨み合う。
ケンカじゃない。じゃれ合いだ。
森くんとじゃれ合いができるほど仲良くなれたことが嬉しい。
しばらくじゃれ合ってふざけていたら、勢いよくドアが開く。
「お兄! ママが夕飯だって! 金髪の友達も一緒に・・・!」
「あ・・・」
ちょうど森くんに押し倒され、床に腹をつけているオレと、オレの上に乗っかって横腹をくすぐっていた森くん。
数秒、3人ともフリーズしたあと、ネネがクルッと背を向け、
「ママー! お兄たちイチャイチャしてるぅー!」
大声で言いふらしながら走って出て行った。
「・・・」
「・・・」
「・・・いいかげんどいてくれる? 森。 重いんだけど」
「この際だから立川も鍛えたら? この辺とか」
そう言って、森くんはまた横腹をくすぐり始める。
「あはははーっていいかげんにしろー!」
前言撤回!
悪ふざけする推し、全然推せない!!
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