第15話「スポーツ大会前日」2/2


 外灯の下、森の金髪が光って見える。

 ドリブルをしながら中庭を駆ける森を、小倉さんがうっとりした目で見つめる。

 オレはその横で、そんな小倉さんを生暖かい目で見ていた。


 よかったね、小倉さん。


「はぁぁ~、眼福! 森くんのドリブル姿、推せる~」

「はははは」

「もう、森くんのバスケ姿、生で見れないと思ってたから嬉しい」

「・・・小倉さん」

 少し瞳が潤んでるのがわかる。


 オレには味わえない感動だ。


 一瞬、胸がチクッとする。


 変だ。寂しいなんて。

 小倉さんは知ってて、オレには知らない森くん。


「立川くん」

「何?」

 小倉さんの表情が少し真剣だ。

「森くん、シュートの練習はしてるの?」

「シュート? そういえばしてないかな。その代わり、オレばっかシュートの練習してるよ。基本の構えから投げ方までみっちり」

 思い出しただけでもゾッとする数日間だった。

「そっか、やっぱり」

 考え込むようにうつむいてしまった。

「どうかした?」

「・・・やっぱり、まだ肩の怪我は万全じゃないんだなと思って」

「・・・」

「・・・」

 オレも小倉さんも黙ったまま森くんの練習を見守った。



 すっかり暗くなり、見回り担当の佐渡先生が窓から顔を覗く。

「もう帰れー。明日スポーツ大会だぞ」

「はーい」

 手を挙げると、先生は窓をピシャリと閉めて去って行った。

「小倉さんはチャリ通だっけ?」

「うん、じゃぁ、また明日」

「また明日!」

 校舎に消えていく小倉さんに手を振る。と、思ったら、小倉さんが戻って来て森くんの前で止まった。

 きょとんとする森くん。

「森くん、私、テーピングの仕方勉強したの。だから、明日辛かったらいつでも声かけてね!」

 フンッと鼻息を荒くして、ガッツポーズした。

 数秒固まってた森くんが、フッと優しく笑って、

「わかった。痛くなったらお願いする」

 コクコクと何度も頷く小倉さん。照れて耳まで赤いのがわかる。


 その後、小倉さんは帰り、オレと森くんはその場で制服に着替える。

「なんか態度違くない?」

「何が?」

 鞄を持ち上げる森くんにオレは突っかかった。

「オレの時はブッとかいって爆笑だったのに、小倉さんには優しくニコーッて」

 森くんのマネして目を細めて口角を上げた。笑顔というより妖怪だ。

「テーピングだぞ? シュートもまともにできない奴がコンビとか言うのと遥かに違う。月とスッポン」

「うっわ、ひどい」

「もっと鍛えた方がいい」

 オレの横腹をつまんできた。

「うわーマジやめろ! 太ってないし」

「太ってなくても、引き締まってない」

 きっぱり言われ、地味にショック。


 くそー、森くんと友達になれて嬉しいけど、けっこうズバズバ言うんだよな。


「タツ兄に言って、トレーニング室借りようかなー」

「立川の家、トレーニング室あんの?」

「うん、タツ兄がだいぶいじりまくってるけど」

「・・・」

「!?」

 黙ったと思ったら、森くんの目がキラキラ輝いている。

「・・・」

 無言の訴え。

「使いたいならタツ兄に聞いてみるけど」

「使いたい!」

 ビシッと手を挙げる。

 こんなテンション上がった森くんを見るのは初めてだ。新鮮。


「じゃー一応。あーでも、今体絞ってるからどうだろう」

 タツ兄にラインで聞いてみる。

「体絞ってる? ボクシングとかやってんの?」

「違う、ボディビルダーなの。大学のサークルに入ってて」

「なにそれ、すげー興味ある!」

「えぇぇ」

 どんどんテンション上がる森くんに、引き気味のオレ。


 スマホが振動して、タツ兄から返事が来た。

「使っていいって。いつうち来る? スポーツ大会のあとかな」

「んー、今日は?」

「・・・今から?!」

 さすがに無理だろうと思いつつ、タツ兄と母さんにラインすると、ふたりともオッケーの返事が。

「じゃ、さっそく立川んち行こうぜ」

 意気揚々と下駄箱へと向かう森くん。


 森くんがうちに来る?! マジで?!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る