第17話「森くんが我が家にやってきた」2/2
「あー腹いっぱい。いつもあんな量なわけ?」
ゴロンと森くんがオレのベッドに寝転がる。
「タツ兄、今体絞ってるから炭水化物抜いてるんだよ。今日はいないから母さんも気兼ねなく作りまくったと思う。あとは、森を歓迎してだと思うけど」
「そっか、だからチャーハンにパスタ、ピザ、ラザニア・・・つけ麺もあった?!」
「ところで親に連絡した? 泊まること」
「した」
「父さんも母さんも遅いからって強引に・・・大丈夫だった?」
「全然。親ふたりとも働いてて帰り遅いから」
「そうなんだ」
「それより、寝間着貸してくれてサンキュ。サイズぴったり」
「身長ほぼ一緒ですから。あ、オレの方が一センチ上だった」
「余計なこと言わんでいい」
「イテッ」
ボスッと森くんが投げてきた枕に当たる。
プイッとそっぽを向く森くん。
子供か。
ただ今、森くんのために布団を敷いてる最中。
夕飯、お風呂にと気づけば森くんはこのままうちに泊まることに。
スマホが鳴り、覗いてみると小倉さんからだ。
「森、小倉さんがお泊りしてる証拠写真が欲しいって」
「は?」
起き上がった森くんに近寄ってふたりでツーショットをパシャリ。
送ると、小倉さんからすぐに返信がきた。
『推しとペアルック! 最高すぎる』
うさぎがハートを飛ばしながらクルクル回ってるスタンプが追加され、小倉さんがだいぶ興奮してるのがわかる。
送った写真を見て、今まで気にしてなかっただけに変な恥ずかしさが沸いてくる。
確かに、ペアルックだ!!
オレがいつも寝間着にしてるTシャツとスウェットのパンツを色違いで森くんに貸してるから、ふたりで並んでるのを見ると・・・。
そっとスマホを机に戻す。
「さっきからスマホいじってると思ってたけど、相手小倉さんだったんだ」
「うん、次は小倉さんもうちに呼ぼう」(トレーニングは苦手かもだけど)
「そういえば、最近小倉さんとも教室で話すようになったな」
「うん、周り気にするのやめた」
「女子が騒いでるの聞いた」
「え? 何を? 小倉さんの悪口じゃないよね?」
「・・・」
「・・・その間はなに?」
「女子ってそうゆう話好きだから気にすることない。というか、立川ってやっぱりモテるよな。顔立ち良いとは思ってたけど。家族もみんな顔立ち整ってるし。特におばさん。あ、そっか立川っておばさん似か。ネネちゃんも立川とそっくりだし」
「いやいやいや、しゃべりすぎて逆に怪しいから」
「・・・どんまい」
「うっ」
明日、小倉さんにさりげなく嫌な思いしてないか聞いてみよう。
自分らしくしたいけど、誰かを傷つけたいわけじゃない。
「立川、スマホめっちゃ鳴ってる」
「え?」
スマホを覗くと、小倉さんからラインが10件も!(なんかデジャブ!!)
オレが思ってるよりも小倉さんはタフかもしれない。
小倉さんの興奮ラインに癒されながら返信を返したり、要望に応えて森くんとまた写真を撮って送った。
大サービスとして、トレーニング中の森くんの動画を送ったらすごい喜んでくれた。
小倉さんとのラインが一段落ついたところで、森くんがあくびをしてるのに気づく。
「明日スポーツ大会なのにうちに泊まって休まる?」
「基本、どこでも寝れるから。部活とかバスケクラブの合宿とか参加してたし」
「そっか・・・て、森が寝るのはここ。ベッドはオレだから」
「俺ベッドじゃないと寝れない」
「いやいやいや、たった今どこでも寝れるって言ってましたけど!」
「一緒にベッドで寝ればいいじゃん」
「いやいや、育ち盛りのむさい男ふたりでベッドって・・・無理がある」
「いけるいける。立川こっち寝てみ?」
「え?」
せっかく布団敷いたのにむごすぎる。
森くんは壁際に寄ってスペースを確保するとポンポンとベッドを軽く叩いてオレを招いた。
絶対狭いと思いつつ、隣に寝てみると・・・やっぱり狭い。
お互い細身だから体が当たったりはしないけど、これ絶対寝返りがうてない。うてたとしてもかなり窮屈。
「いけるじゃん!」
森くんは狭くても平気みたいだ。
「えー」
「不満?」
「いや、子供の頃、タツ兄とよくベッドで一緒に寝てたんだけど、寝相悪くて・・・」
いっつもタツ兄の足に蹴られたり、ベッドから落とされたりと良い思い出がない。
「寝相良い方だから安心して」
「・・・森がそこまで言うなら・・・」
「もう寝よう! 明日のために。電気どこ?」
「あ、オレ消す」
ピッとリモコンで部屋の電気を消す。
改めてベッドで寝てみるけど、やっぱり狭い。
「今日、来てよかった」
「え?」
視線だけ森くんに向けると、仰向けで天井を眺めていた。
「トレーニング室目当てだったけど、夕飯おいしかったし、おじさんもおばさんも良い人だったし、妹のネネちゃんの話も面白かった」
「なんかごめん、にぎやかすぎる家族で」
「なんで? 俺ひとりっ子だからにぎやかな家族憧れるけどなー」
「ひとりっ子だったんだ」
「何やっても特に干渉しない親。子供の頃は忙しい合間を縫って水族館とか連れてってくれたけど。バスケもそのひとつで、プロの試合とか観に行ったりして、俺が興味持ったらバスケクラブの見学に連れてってくれて、そこからバスケにハマった」
「中学からじゃなかったんだ」
「うん、家に帰っても誰もいないから、どんどんバスケにハマってった。上達すればコーチに褒められるのが嬉しくて。チームのみんなとワイワイやるのも好きだった」
「へー」
薄暗くてわかりづらいけど、森くんの声のトーンが楽しそうなのがわかる。
バスケが好きなのが伝わってくる。
「立川がバスケやろうって言ってくれた時、正直嬉しかった」
「・・・え?」
キレてましたけど?!
「みんな俺のこと腫れ物扱いで、肩壊したあとの中3は居づらくて学校行くの嫌だった。とにかく勉強しまくって受験に集中した。でも、高校受かったところでどうでもよかった。髪も染めてピアスもしてみたけど吹っ切れないし、このままつまんない日が続くのかなぁ、なんて思ったりしてさ」
「・・・」
「スポーツの名門校に推薦が決まった時はみんなすげー喜んでさんざん期待してきたのに、ダメになった途端・・・ま、自業自得だから仕方ないんだけど」
はははと森くんが空笑いする。
「別にプロを目指してたわけじゃない。名門校にも入りたかったわけじゃない。ただ、好きなバスケをずっと続けられたら・・・それだけでよかったんだ。俺にはバスケしかない・・・」
タツ兄の言ったことを思い出し、いてもたってもいられずその場で上半身だけ起こして、
「続けられるよ! プレーヤーは無理でも、バスケに関係する仕事とか探せばきっとたくさんあると思う! オレも手伝うし」
「・・・」
「・・・森?」
反応がないから顔を覗き込むと、寝息を立てて寝ていた。
「おーい、森くーん」
オレの渾身のセリフを・・・ガクッと肩を落とし、そのままベッドに寝転ぶ。
森くんに「嬉しかった」と言われて、正直ホッとした。
しつこいオレに付き合ってくれてるんじゃないかと思っていたから。
森くんはオレと違って、はっきり言うタイプだ。
入学式の時の堂々とした態度にぴったりあう性格は今でも憧れる。
自主練を始めた時は少しきごちなかった関係もバスケのこととなったら容赦なくなるし。
おかげで森くんと打ち解けて、今は胸を張って友達だ! と言える。(認定してもらったし!)
不意打ちだけど、うちに森くんが来て、しかも泊まってるし。
これはもうだいぶ心の距離も縮まって、友達から親友になれるのでは?!
推しが親友・・・。
ついつい顔が緩む。
顔を横に向けると、目の前に森くんの顔が。
「近っっ!!」
薄暗くても目の前にあればさすがによく見える。
オレが声を上げたのにまったく気づきもせず寝息を立てて寝ている森くん。
起きなくてよかったと胸を撫でおろす。
森くんがオレの部屋に、しかも隣で寝てるなんて変な感じだ。
目の前にあるとついつい観察してしまう。
まつ毛、長っ。
一緒にいても気づいてないことってまだたくさんあるんだな。
はっきり言う森くんが、オレに声をかけたのが嬉しいなんて・・・思ってても逆の態度をとっちゃうほど森くんなりにいろんな葛藤があったんだろうな。
もしかしたら、今も・・・。オレの知らないところで頭抱えたりしてるんだろうか。
それこそ、オレには理解できないようなこととか。
「ん」
起きたのかと思ったら、寝返りをうってオレに背を向けた。
自然とため息がこぼれる。
考えてもしょうがない。
夢中になれるものを見つける手伝いはできても、全部を理解なんて無理な話だし、おこがますぎる。
だいたい、そんな友達重いだろ。
「寝よ」
ゴロンと、寝返りをうって森くんに背を向ける。
数時間後、森くんの寝相の悪さに自分で敷いた布団で寝ることになる。
寝相良い、て嘘つきか。
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