第2話「同志」
昼食をサクッと済ませ、残りの昼休みで小倉さんに話しかけることにした。
小倉さんは自分の席で、友達らしき二人とお弁当を食べている。
オレも自分の席で、友達と談話を楽しむフリをして後ろの席の小倉さんの様子を伺う。
無理やり割り込んで話しかけてもいいけど、小倉さんとはクラスメイトなのにまだ面識がない。
挨拶くらいなら1回はあるかもしれないけど・・・記憶にない。
お弁当箱を鞄に戻して教室を出て行く小倉さんを、周りに感づかれないようにあとを追う。
トイレから出て来た小倉さんに声をかける。
「同じクラスメイトの立川って言うんだけど・・・わかる?」
「う、うん」
こくりとうなずくも、戸惑いを隠せない小倉さん。
だよね。
今まで話したことないのに、急に廊下で声かけられたら戸惑うよね。
良い案だと思ったけど、これといったプランのない思いつきの行動に、一瞬やらかしたような気持ちになる。
でも、もう声かけちゃったし、後には引けない。
「同じクラスメイトの森くんのことなんだけど」
「森くん?」
きょとんとする小倉さん。
「小倉さんて、森くんと同じ中学だったの?」
怪しまれないようにいつもの笑顔を貼り付けて情報を聞き出す作戦。(今思いついた)
フルフルと首を横に振る小倉さん。
「ち、違うよ」
少しうつむきがちに返事をする小倉さんは、オレに話しかけてくる女子たちと違って男子慣れしてないのか、苦手なのか、オレを怪しんでいるのか・・・。
思ったより会話が弾まない。
話しやすそうだと思ったけど、めちゃめちゃ話しにくい。
不思議だ。
同じ中学でもないのに、森くんには挨拶ができるなんて・・・。
森くんよりよっぽどオレの方が外見普通だし、話しやすそうだと思うんだけど。
「森くんに挨拶してるの見かけるけど・・・怖くない? ヤンキーてうわさもあるし」
「怖くないよ! みんなあの髪で誤解してるけど、森くん全然普通だから!」
「え?」
またそっけない返答かと期待していなかったのに、小倉さんは真っすぐな瞳で力強くオレに言った。
え?
なにこの変わり様。
次はオレが小倉さんに対して戸惑う。
「え? もしかして森くんとつき合ってる?」
オレの言葉に小倉さんが慌てふためきだし、奇怪な動きを・・・。(なんて言ったらいいか言葉が見つからない)
「ま、まままままさか!? ち、違うの! 私、森くんのこと前から知ってて。あ、でも、森くんは私のこと知らないんだけど」
「え? どういうこと?」
「森くんがこの高校受験するって聞いたから私も頑張って受験して、あ、でも、そのことは森くんは知らなくて! えーと、つまり・・・」
「・・・もしかして、森くんのストーカー?」
自分で口に出だしておいて、血の気が引く。
小倉さんも首を強く振って否定する。
「えーと、だからね・・・推しなの!」
「え? 押し?」
「推し! 私にとって森くんは推しなの!」
人差し指を天に向け、小倉さんは力強くオレを見つめる。
ごくり、と喉が鳴る。
推し。
つまりそれは、
「森くんは・・・小倉さんにとってアイドル的存在? みたいな?」
「そう、そうなの!」
パァァァと小倉さんの瞳が輝きだす。
正直、推しって言葉よく知らないけど、妹がよく好きなアイドルに言ってるあれだよな。
「みんな誤解してるけど、森くん全然怖くないよ。中学の頃はバスケ部一筋だったし、髪だってピアスだって高校デビューみたいものなの! まぁ、金髪はちょっとやりすぎだと私は思うけど」
さっきとは別人のようにスラスラ喋る小倉さんに、オレの『森くんセンサー』が反応する。
「オレも思う! うわさはうわさだよな! 見た目は派手でちょっとヤバイけど、ケンカしてるところ見たことないし。ていうか、小倉さん森くんのこといろいろ知ってるんだね!」
「森くんのことならなんでも! 推し活して3年目ですから!」
「3年目?!」
「森くんのこと語ったら三日はいける!」
「すごっ。オレ、小倉さんが森くんと目合わせて挨拶してるの見ていいなーって思ってて!」
「立川くん、森くんと仲良くなりたいの?」
「めっちゃなりたい! 入学式の時から堂々としててかっこいいなーって思ってて! あーでも、タイミングつかめなかったり、今日なんてせっかくのチャンスだったのに、撃沈したし」
「入学式の時の森くんかっこよかったよね!」
ヤバイ、なにこれ。
小倉さんとめっちゃ会話が弾む!
しかも、楽しい!
小倉さんがキラキラした目でオレを見つめ、
「立川くんてクラスの人気者だから、住む世界が違うなぁて引いてたんだけど・・・立川くんも森くん推しだったなんて」
「推し。オレも推し活してるってこと?」
小倉さんがキラキラした目でコクコクと頷く。
こ、これが推し活!
これが推し活?
なんとなく腑に落ちない気持ちはあるけど、小倉さんと森くんの話をするのは楽しい。
そして、森くんに憧れを持っている。
好きなアイドルに憧れを持っているのに似ている? のかもしれない。
そっか、オレにとって森くんは推し!
「立川くん、もしよかったら、今日の放課後空いてる?」
「え?」
「中間テストの勉強を森くんとする約束してるんだけど、もしよかったら立川くんもどうかなぁと思って」
「え? マジ?! いいの?!」
驚くオレに、小倉さんがニコッと優しく微笑む。
「せっかくできた同志! 協力します!」
小倉さんのガッツポーズに、オレも賛同!!
「よろしくお願いしまっす! 同志!」
森くんと勉強!
夢みたいだー!
つづく。
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