Day20 入道雲
不気味なほど静まり返った町の中から見上げた空は、鮮やかな入道雲が浮いていた。降り注ぐ日差しは肌を容赦なく侵食し、まるで大きなフライパンの上で焼かれている肉のような気持ちにさせられた。蝉の鳴き声も暑すぎるからか聞こえない。ただ、暑く重く澱んだ空気が町を覆って、その下から見上げる入道雲は鮮やかすぎて、逆に蜃気楼のように現実味がない。
「……前は、こんなじゃなかったよね」
ミツキの呟きに、アヤは無言で頷く。暑すぎて、話すのも億劫だ。お揃いの白いワンピースは太陽光を鮮やかに反射するけれど、熱を和らげてはくれない。
「仕方ないよね。変わってしまったんだから」
ミツキは今度は独白のように言う。アスファルトの坂道に落ちる影は短い。太陽が真上にある時間は、影が短くなる。自明の理だ。
「入道雲は変わんないけどね」
「まあ、水と大気の動きだからね」
アヤは額に浮いた汗を指で拭い、眩しげに空を見た。夏の象徴のような入道雲。青い空。そこにひまわりとかき氷と風鈴を添えたら、夏の原風景の出来上がり。そんなものでもう涼は取れない。人々は空調の効いた屋内に引きこもり、外は虫すらも木陰から出るのを躊躇うような静かな世界と化した。ひまわりは茎を切ってしまえばそのうち水分を奪われて萎れ、かき氷はただのぬるい色付きの砂糖水になる。風のない中では風鈴はただのガラスと金属の吊るし飾りだ。ただ、入道雲だけは変わらずにそこにいる。
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