Day17 その名前
「アヤ」
「ミツキ」
名前を呼びあう。向かい合った顔は双子のように似通っているが、どことなく違いもある。まずアヤは長髪で、ミツキは短髪。アヤはたれ目でミツキはつり目。第一印象で違うとわかるのはそのくらいだが、それだけで随分雰囲気は変わるものだった。ともあれ、アヤとミツキは似ていたし、双子のようなものではあるが、見間違えたりはしない。
「アヤちゃんとミツキちゃんは、仲がいいねえ」
公園で孫らしき子どもを連れてきていた老婦人が声をかけた。アヤとミツキは公園にいる他の子どもたちと遊ぶ時も、いつも二人一緒だった。同じ小学校の子どもたちが多く集まる公園だから、保護者たちとも顔見知りが多い。木陰のベンチに置いた色違いの水筒からお茶を飲んだアヤとミツキは、老婦人を見たあと同時にお互いを見た。
「ねえミツキ、ぼくたちって仲良しなのかな?」
「アヤと仲良し? わたしが? そうかなあ」
「あら、照れることなんてないのよ」
老婦人は二人の疑問を意に介せず笑った。この老婦人に限った話ではないが、声をかけたのは答えを望んでのことではなく、おそらく自分の思っていることを口にしただけのようだった。答えはもう老婦人の中で出ている。
「名前も仲良しさんよね。七月生まれなの?」
「どうだろう、分からない」
「名前と七月生まれ、どうして結びつくの?」
アヤとミツキは同じようにくるりと丸い目で老婦人を見た。流石にこの解答は想定していなかったのか、老婦人の微笑みが若干戸惑ったような顔になった。
「分からないって。お父さんやお母さんから聞いたことないの?」
「お父さん?」
「お母さん?」
アヤとミツキの顔は純粋な疑問だけを呈していた。とぼけているようでもなく、大人をからかおうという悪意も見えない。二対の瞳はよく似ている。双子のように。
「アヤちゃん、ミツキちゃん……」
「アヤ! ミツキ! ドッヂボール入ってよー」
「いいよー」
「今行くー」
二人はあっという間に木陰から走り去り、後には当惑したままの老婦人が一人残された。
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