Day13 切手

「暑中見舞いを書きましょう」

 学校の授業でそんな課題が出された。色紙やカードサイズの画用紙などが用意され、夏らしい絵を添えた絵手紙を作ろうというものだ。一人一人の机にはお道具箱という名目ではさみやのり、色鉛筆やクレヨンが用意されている。色鉛筆やクレヨンを駆使して便箋がわりの紙いっぱいにプールで遊ぶ自分と思しき元気な絵を描いてみせる子もいれば、朝顔などの夏の花の絵を色鉛筆で繊細に描く子もいる。アヤとミツキは、それぞれ隣近所の席の子の描き始めたものをちらちらと窺いつつも描くものが決まらなかった。

「それ誰に出すの?」

「おばあちゃんが入院してるから、お見舞いに出そうと思って」

 ミツキの隣の女の子は、色鉛筆で色とりどりの朝顔やあじさいを描いていた。クラスでも絵の上手な女の子で、小学校の低学年とは思えないほど的確にものの形を捉え、色使いも上手い。青や紫、赤を使い分けて薄く塗り重ね、統一感があるのに色とりどりな画面を作り出している。ミツキはふわあ、と感嘆の声を上げた。

「すごい! きれい」

「ありがと」

 女の子ははにかむように笑った。絵を描くのが好きなのだろう。そういえば家でおばあちゃんが絵画教室をしているとか聞いたことがあったが、入院しているのはそのおばあちゃんだろうかとミツキは考えた。

 一方、アヤの隣の男の子は折り紙と画用紙を選んだ。折り紙は赤一色で、使い慣れないらしいはさみでよく分からない形に切っている。

「何してんの」

「教えない」

 男の子はわざとらしく意地悪げに言った。アヤは肩をすくめて自分も適当に便箋に向かったが、そのくせちらちらと隣の男の子の机上に目をやるのを忘れなかった。どうやら男の子は太陽のようなものを切り抜いて貼っているらしい。白い画用紙の真ん中にはさみの切り跡がギザギザになっている不器用な丸が貼られている様子は、まるで日の丸弁当のようだった。あながち間違いではない。

 授業の時間が終わりに近づき、子どもたちはそれぞれ絵手紙を封筒に仕舞った。封筒に宛名のみを書いた状態で一旦先生に提出し採点の後、その後封筒に宛先まで書いて再度提出、先生が切手を貼ってまとめて投函するとのことだった。授業の終わりを告げるチャイムが鳴るのを聞きながら、先生は切手の連なったシートを掲げて見せた。

「毎月二十三日は、語呂合わせで“ふみの日“とも定められています。特に今月七月は、昔の言葉で“文月"と呼ばれたこともあって、“文月のふみの日“ということで記念切手が出ているんですよ。普段なかなか言えないことも、お手紙で伝えることもできるかもしれませんね」

 切手には色とりどりの鳥が印刷されていて、貼るだけでただの白い封筒も華やぐようだった。それを見たアヤとミツキは密かに胸を撫で下ろした。二人ともあまり絵が上手く描けずに、何が描きたかったのか自分でもよく分からないものを描き殴るのに終始してしまったので、切手で少しでもまともな絵手紙に見えたらいいと思った。

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