Day7 七夕
「織姫と彦星が仕事をサボっていちゃいちゃしてたから、天の川で隔てて会えなくしたんだって」
「……よく知ってるねえ」
児童館の入口に飾られた笹には、色とりどりの短冊が所狭しと吊るされている。巧拙さまざまな文字で記された願い事は、ちいさなものごとから大きなことまで。学童の子どもたちがおおかた帰ったあと、アヤとミツキの二人だけが残っていたところに、学童保育の子どもたちを見送った男性が「アヤちゃんとミツキくんは短冊書いたかな?」と声をかけた。男性は学童保育の面倒を見ている一人で、今日は七夕だからと折り紙で飾りを作ったりしていたのは知っていた。ただ、アヤやミツキくらいの低学年には、七夕伝説の由来の絵本の読み聞かせなどはした覚えがなかった。家の人から聞いたのか、と考える。
「でも、一年に一度の七夕の日には会えるんだよ」
「でも仕事サボったのはいけないことだよね」
男性の言葉に言い返したアヤとミツキは、二人でうんうんと頷きあっている。真面目な子どもたちだ。
「でも一年に一度しか会えないのはちょっと厳しくない?」
「でも大事なお仕事を放ったらかした方も悪くない?」
アヤとミツキは、「でも」を重ねていく。二人は同時に男性を振り返った。
「「ねえ、どう思う?」」
「どうって……」
自分は天界の王ではない。しがない一介の学童保育の見守り要員だ。そんな自分に遥か古代の神々の罪と罰について問われても。困惑する男性を他所に、アヤとミツキはまた顔を見合せた。
「ミツキ、もう帰ろう」
「そうだね。もう帰る時間だ」
じゃあ、ばいばい。
二人はそう言って手を振り、児童館を出ていった。二人とも短冊は書かずじまいだった。
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