Day4 滴る

 冷房が効きすぎるほどに効いた室内は、執拗なまでに清潔感を誇示するカーテンで仕切られていた。 温度も音も筒抜けな小さな急拵えの部屋の中は、ただ視界だけが外と遮られる。それだけでもある程度の安息は得られるようで、ベッドに横たわった少女は気の抜けたようなため息をつく。枕元のスツールに座って足をぶらぶらさせていたアヤは、そのため息を聞き取って呆れたような顔で言った。

「……ばかだねえ。無理しちゃダメって分かってたでしょ」

「ごめん、アヤ」

 少女は素直に謝った。タオルケットから出た腕は学校指定の体操着のまま。常に音がして静まり返ることの無い病院の喧騒は、授業の間は一応静かになる学校とは違う。

「学校サボって寝てるのってちょっと憧れだったけど、実際は案外暇だわ」

「動けないもんね」

 少女の腕には注射針が刺され、テープで固定された細長いチューブの先には点滴が繋がっている。ぽたぽたと滴るしずくの速さとか、その上に掛けられた薬液かなにかのバッグの水面がゆっくりゆっくり下がっていく様子とか、そういう所を見ているしかない。あとは何しろカーテンで視界が遮られている。暇つぶしにもってこいのスマートフォンは学校への持ち込み禁止、ましてやその学校から救急車で直行した病院になんて持ってきていない。味気ない天井の模様は早くも見飽きた。

「あー、動画見たい」

「たまにはスマホ断ちしろってことじゃないの」

「アヤ辛口だねー。スマホ持ってないからわからないんだ、この何も見てない時間がどれだけ退屈か」

「アヤは子どもだからスマホいらないもーん」

 小生意気に笑って、アヤはぴょんとスツールから飛び降りた。カーテンを払って出て行った小さな影は、ぱたぱたと小さな足音を残して遠ざかっていく。トイレにでも行ったのだろうか。なんだか急に眠くなってきて欠伸をした少女は、アヤが戻ってくるのを待たずにうたた寝を始めた。


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