ドロシーの会いたくない人


「おー来たなエリックにドロシーちゃん。ちょうどお菓子が出来上がったところだ、食べてけ食べてけ」


「おお、ありがとジャック」


「あ、ありがとう……ございます」


 今日はお菓子を買いにジャックの店までやってきた。素材はまだ十分揃っているから【ローム】まで行く予定はなかったんだが、この前もらった分のお菓子が切れてドロシーが物欲しそうにしていたので一緒に買いにきたわけだ。


「あーやっぱりジャックの作るお菓子は美味しいな」


「……うん!」


「お、ドロシーちゃんなんだか前に会った時よりも明るくなったか? 表情も前と比べたら柔らかくなったなぁ」


 ジャックが作ってくれたお菓子をお店で食べていると、そんなことをジャックが言ってくれた。やっぱり、他の人から見てもそう思えるくらいにドロシーは徐々に明るさを取り戻しつつあるみたいだ。


「そ、そう……ですか?」


「ああ、俺の目に狂いはないからな! ほら、もっとお菓子を食べて幸せになれ!」


「な、なんだその言い方。でもありがとな、ドロシーもジャックのお菓子気に入ってるし、こんな食べさせてもらえて助かるよ」


「なーに、エリックには何かと世話になってるし、ドロシーちゃんにも俺のお菓子を堪能してもらいたいからな! ……ん、なんか外騒がしくねーか?」


 お菓子を食べていると、ふと街がガヤガヤと騒がしくなり始めた。何やらカシャンカシャンと鎧を身に纏いながら誰かが歩く音も聞こえてくる。どうやらそれは一人だけでなく、結構な数いそうな気がした。


「何か祭りでもあるのか?」


「いや、そんな予定はないはずだが……」


「ちょっと見てくる。ドロシーはジャックとここで待ってて」


「う、うん……」


 まだドロシーは人が多いところは苦手だから、俺一人で街の様子を確認しにきた。すると、街の中にはごつい鎧を身にまとった騎士たちが大勢いて、街を占拠しているかのような状況だった。


「おいおいどういうことだよフザケンナ!」


「あ、あのー何があったんですか?」


 怒っているおじさんがいたので、とりあえず話を聞いてみることにした。怒りをあらわにしているのをみるに状況を把握しているっぽいし。


「それがな、なんだかここの鉱山をしばらく帝国で独占するとか言い出したんだよ。これからもっと戦争が激化するから、ここを帝国直轄にしてより武器の生産を増やすとかなんだか言いやがってんだ」


「え、そ、それは本当ですか!?」


 【ローム】の鉱山が使えなくなるのは俺としても大変困る。家から近場にあるこの鉱山が使えなくなると、結構遠出をしないといけなくなるから。そもそも、いきなりどうして帝国はここを私有化するとか言い出したんだ?


「ああ、あそこにいる……なんだ、貴族のブライヤー家? ってやつがなんかそう宣言してんだよ。まったく、皇帝が直に懇願しに来いっての」


「……ブライアー家?」


 その言葉を聞いて、ふと嫌な予感がした。ブライアー、それはドロシーがいたはずの一族だから。それが帝国の命令なのかこの鉱山を独占しようとしている。やっぱり、一族は滅びたわけじゃないみたいだ。ならどうしてドロシーは奴隷になった? ……正直、ろくな理由ではないだろう。


「なんかこれはあくまで噂だが、裏で今の皇帝を操っているとか言われてる一族だな。そういえば、ブライアー家の令嬢が奴隷になったっていう噂もあったか。ま、とにかく黒い噂の絶えないイヤーな貴族様さ」


「……」


 おじさんからその話を聞いて、早くこの街が出ようと確信した。だって、このままあいつらがいるこの街にい続けるのは、嫌な予感しかしなかったから。


「お、おかえりエリック。なんだったんだ?」


「……え、エリック……?」


 店に戻ると、どうやらまだ二人は事情を知らないようだった。このままドロシーには何も伝えずに家に帰ろう。そうすれば、ドロシーが余計な苦しみを味わうこともないはずだ。


「ごめんジャック。早めに帰ることにする。行こっか、ドロシー」


「お、おお……ど、どうしたんだエリック?」


「事情は今度話すよ。それじゃ!」


 ちょっと強引にドロシーを連れ出して、俺たちは店を後にした。このまま立ち去れば何事もなく済ませられる、そう思っていた。けれど……。


「ディラン ブライアーが宣言する! 抵抗する市民は全員帝国の名において処罰する!」


 そう、高らかにディランと名乗る人の声が街中に響いた時、ドロシーの足が止まる。繋いでいた手は今までにない以上に震えて、顔は血の気が引いて青ざめていた。


「お、お兄さ……ま……い、いや……いや……いや……………いやぁぁぁぁ!」


「ど、ドロシー!」


 全身を震わせながら、ドロシーは現実から目を背けるかのように首を横に振り続ける。そして、身体に力が入らなくなってしまったのか、床に沈み込むように倒れ込んでしまった。


「お、おいエリックどうした……ど、ドロシーちゃん!?」


「すまないジャック、店で介抱してくれないか? ……ここまでドロシーが慌てふためくのを見たのは、初めてなんだ」


「お、おうよ!」


 悲鳴を聞いてジャックが駆けつけてくれたので、気絶してしまったドロシーを二人で店まで運び、裏にあるベッドに寝かせる。


 ……あの時のドロシーの反応、おそらくあのディランという人に怯えてのことだったんだろう。


 これはまだあくまで、俺の仮説に過ぎない。でも……こう考えたっておかしくないはずだ。


 ドロシーが、家族によって奴隷にさせられてしまったって。


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