絶対に君を守るから


「ドロシー……」


 倒れ込んでから数時間。ドロシーはなかなか目を覚ましてくれなかった。眠っている間もドロシーはずっと辛そうな表情をしていて、夢の中で昔のトラウマを思い返しているのかもしれない。


 つくづく、俺は自分がもっと早くドロシーを助けてあげられたらって後悔してしまう。最近のドロシーはだんだん笑えるようになったとはいえ、彼女は一生消えない傷を負わされている。今だって、それに苦しんでこんなことになってて……俺は、本当に無力なんだって痛感する。


「エリック、ドロシーちゃんはまだ目を覚まさないか?」


「……ああ」


「……俺にできることはお菓子作ることしかないだろうけど、できる限りなんでもするからな」


「ありがとうジャック。ほんと、ジャックには助けてもらってばかりだな」


「そりゃお互い様だ。それじゃ、俺は明日の仕込みをしてるから、何かあったら呼んでくれ」


「ああ」


 それから俺はドロシーをつきっきりで看病していたものの、まるで夢の中に囚われているかのように、ドロシーは一向に目を覚ましてくれなかった。


「ドロシー……頼む……目を覚ましてくれ……」


 ドロシーの手をぎゅっと握りながら、俺は涙を堪えつつそう懇願する。ドロシーが傷ついてしまった過去は消すことができない。それでも、これからドロシーが幸せに生きられる未来は作ることができるはずだ。きっと俺にできるのは、それしかないから。


「絶対に……俺はドロシーのことを守るから。例え国を相手にしたって、俺は絶対君を幸せにする。あの時のように、また心からドロシーが笑えるように頑張るからさ!」


 まだ憶測にしか過ぎないけど、ドロシーはお兄さんと呼んでいたディランという人に怯えていた。その人が帝国の騎士たちの指揮を執っていたのを考えると、もしかしたら俺は、いずれ帝国を相手にするかもしれない。


 でも、そうなったって構わない。俺はドロシーを絶対に幸せにしたいから。それを邪魔する奴がいるのなら、どんな奴だって許さない。


「……え、エリック……」


「……ど、ドロシー!」


 ふと、握っていたドロシーの手がピクリと動いた。そして、ドロシーが目を開いて俺の名前を呼んでくれた。よかった……目を覚ましてくれたんだ。安堵した俺は自然と笑顔がこぼれてしまう。


「……エリック!」


「ど、ドロシー!?」


 ドロシーはベッドの上から勢いよく、俺に抱きついてきた。身体はまだ震えていて、ドロシーはポロポロと涙を流している。やっぱり、夢の中でも恐怖に怯えていたんだろう。


「……わ、私……嫌な夢を見たの。エリックが……お兄様に殺されちゃう夢……。ゆ、夢だってわかっているのに……目を覚まして、現実だったらどうしようと思って……エリックがいなくなったら、わ、私……」


「……そっか。でも、大丈夫だよ。俺は生きてる。これからも、ドロシーをおいて死んだりしない」


 俺はぎゅっとドロシーのことを抱きしめ返す。きっと、それくらいドロシーにとってお兄さんの存在は恐怖の対象なんだろう。でも、そんなくだらない夢を正夢にさせてたまるか。ドロシーをおいて死ぬなんてできるわけないだろ!


「俺はドロシーを幸せにするって決めたんだ。絶対に君を守って、君を幸せにする」


「え、エリック……あ、ありがとう……すごく、嬉しいよ」


「婚約者の幸せを願うのは当然だろ?」


「……好き」


「え?」


「エリックの……そういうかっこいいところが……好き」


 いきなりドロシーから好きと言われてしまって、俺はついあたふたしてしまう。い、いやこうやってドロシーから直接言われるなんて思ってなかったし、心なしかドロシーの顔がいつになく近づいている気がする。


「……ね、ねぇ……。キス、しよ? わ、私……エリックを、もっと感じたい」


「き、キス!? い、いやまだそういうのは早いというか、そもそもここジャックの店だし……」


 随分と顔が近づけるなと思っていたら、ドロシーがキスを懇願してきた。前までこんな積極的になって来なかったのに……なんだか、ドロシーはネジが一本外れたかのようにちょっとグイグイ来る。


「……ちょ、ちょっとだけ。だ、だめ……?」


「う、うう……」


 訴えかける視線を近距離で送られて、俺の理性はもう壊れかけていた。ジャックにそんなところ見られたら気まづくなるに決まっているってのに……それでも、ドロシーのお願いを聞いてあげたい気持ちが勝る。


「……わ、わかった」


「……ありがとう」


 折れる形で俺はドロシーのお願いを聞き、ドロシーは俺の顔を両手で包みながらほんの少しだけ、俺にキスをした。一瞬のことだったけど、俺の中に柔らかくて甘い感触が間違いなく広がっていた。


「……エリック、顔真っ赤」


「し、仕方ないだろ。初めてなんだから」


「……よ、良かった?」


「……うん」


 お互いに真っ赤になった顔を見合わせながら、俺たちは小さく笑いあった。雨降って地固まるといった感じなのかもしれない。ドロシーが俺を、心の底から信頼してくれるようになった気がしたから。


――――――――――

読んでいただきありがとうございます!


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