ゲーム以降続く異変

「……あ、俺らそろそろ行かないと、予備校に遅れるね。」

「あれ、もうそんな時間か?」



 実が見つめる携帯電話を、拓也が一緒に覗き込む。

 それを聞いた晴人が、苦虫でも噛み潰したかのように顔を歪めた。



「うへー……聞きたくない単語。お前、高校に入ってまで塾って、ある意味馬鹿なんじゃないの? それなりに遊ばないと、身が持たないぞ。……ハッ、まさか。表ではつんけんしてても、裏ではやっぱオレと競ってるんじゃ……」



「言いがかりも大概にしろ。お前らもさっさと帰れよ。俺らも行くからさ。」



「あはは、ひでー言いよう。また明日な。」



 実と拓也に手を振って、晴人と華奈美は歩道を歩き出した。



 離れていく二人から、「今日はどっかで食べていこうか。」などという会話が漏れ聞こえる。



 その後、華奈美が晴人の腕に自分の腕を絡めて、二人は仲睦まじく歩いていく。

 その後ろ姿を、実たちはなんとなく見送った。



「仲いいなぁ。」



 拓也が呟く。



「幼馴染みだから、その分親しみやすいんだろうね。十分に知れた仲だし。」



 あの二人の交際期間はかなり長い。

 なんでも、華奈美の私立中学への入学が決まった時に、晴人から告白したそうだ。



 自分も晴人から話だけは聞いていたが、二人の仲のよさを実際に見たのは、高校に入学してからだ。



 晴人たちとは逆方向にさくさくと歩みを進めていた実に、拓也は自転車を押しながら駆け足で並ぶ。



「つーかさ、まだ予備校なんて嘘ついてんのか?」



 実と拓也が同じ予備校に通っているという話。

 これは晴人たち周囲の人間に向けた、ただの出任せである。



「こうでも言っとかないと、また部活とかの勧誘がしつこいんだもん。」



 実はうんざりと肩を落とした。



 新入生を少しでも多く引き込みたいという先輩方の気持ちは、まあ少しくらいは察してやらんでもない。



 そのしつこさを差し引けば、の話だが。



「おれも、結構つきまとわれたな。これは、どこも変わらないか。」



 自分の経験を思い出したのか、こちらと同じようにうんざりとした表情を浮かべる拓也に、実はくすりと笑う。



 お互い、苦労しているのは同じようだ。



「優秀っていうのは、面倒事を引き寄せるもんなんだね。」

「まったくだ。」



 拓也は肩をすくめる。

 どこまでも長閑のどかな会話に、心がほっとするような感覚がする。



 ここのところ、特に大事おおごとになるような出来事もなく、穏やかな日々が続いている。



 相変わらずレティルとのゲームはあるが、それ以外にアズバドルへ行くのは、桜理に会い行く時くらいだ。



 こんな風に穏やかな日々が、少しでも長く続いてくれればと思う。



 そこで実は、笑みに寂しげなものを滲ませた。



 生憎あいにく、これが叶う願いではないことは知っている。

 だが、所詮はかなくむなしい願いだと分かっていても、そう願わずにはいられないのだ。





 ―――ザ…ッ





「!?」



 思わず、実は耳に手を持っていく。

 それに気付いた拓也が、押していた自転車を止めた。



「大丈夫か?」

「うん…」



 顔をしかめてはいるが、実の顔色は悪くはなかった。



「またノイズ?」

「うん、そう。」



 頷くと、拓也が気遣わしげな視線を送ってくる。



「そっか。……何なんだろうな、それ。もう三ヶ月以上続いてるよな。」



「うん…。時々妙な映像が見えたり、音が聞こえたりもするんだけど、それが何を意味してるのかはよく分からないんだよね。」



 実は当惑顔で眉根を寄せた。



「何か心当たりはないのか?」

「それが全く。」



 拓也の問いに、実は頭を振る。



「眠れなかったりするか?」



「いや、そういうのはないよ。基本的に、あまり気になるものじゃないし。本当に、たまに引っかかるくらいだから。」



「そっか。ならいいんだけどよ……」



「うん。ごめんね、なんか気にさせて。」



 心配そうな拓也に、実はそう笑うしかなかった。


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