意外と優秀な彼
「うぎゃっ」
かなりギリギリのタイミングで実と拓也がそれぞれ左右に
ガシャァン、と。
派手な音を立ててフェンスが揺れる。
なんとか体勢を整えた彼は、しこたま打った鼻をさすった。
「いてて……まさか、お前まで避けるとは思わなかったぞ、村田ぁ……」
真っ赤になった鼻を押さえながら彼―――三村
「残念。二度も同じ手は食わねぇよ。」
以前に晴人の突撃を避けた実の身代わりに抱きつかれたことがあった拓也は、舌を出して涙目の晴人に言ってやる。
どうしても他人になんらかの
おふざけモードの晴人を見る拓也の目が、そこで複雑そうに歪んだ。
「だけど、なんだ……やっぱ、三村が聖清に入ったっていうのは、未だに信じられないな。」
「うわ、まだ言うか。ひっでー。そういうの、偏見って言うんだぜー。」
拓也の物言いに、晴人は大袈裟に傷ついた顔をする。
別の理由とはいえその目には涙も浮かんでいて、ふざけていると分かっていてもフォローしたくなる顔だった。
「自業自得だ。拓也、何度も言うけど、これでも晴人は中学で学年二位だったからね。これでもね。」
「あ、二回言ったぁ! そこは、強調するところじゃなーい!」
晴人のオーバーリアクションを、実はさらりと流した。
性格はふざけているが、中学時代の晴人は自分に次いで頭がいいのである。
昔から自分に引っついていたせいか勉強癖が移り、今の頭脳ができあがったそうだ。
まあこの性格を見ていれば、大抵の人間は彼が優秀だ想像もできまい。
去年ずっと学年三位を維持していた拓也は、二位が晴人だと知った時、割と真面目にショックを受けていたくらいだ。
そんなわけで晴人は自分と同じく、受験をいとも簡単にパスしてこの学園に入学したのである。
「くそー、万年二位の悔しさが分かるかぁ? 高校では絶対に負けないからな、実。」
実を指差し、晴人は声高らかに宣言する。
「別に、競ってるつもりはないけど。」
「へっ。そうやっておすまし顔でいられるのも、今のうちだけだ。オレはな、実を超えて生徒会長にでもなって、めちゃくちゃ目立ってやるんだ!」
いつの間にか、晴人は自分の世界に入っている。
「勝手にやってろ。」
どうでもよさそうに返す実の肩を、晴人がバンバンと叩いた。
「大丈夫、大丈夫。オレばっか目立ったら、フェアじゃないだろ? だからオレが生徒会長になったら、実は副会長に指名してやるよ。」
ちなみに、聖清学園は生徒会長のみ全校生徒の投票で決め、残りの役員は生徒会長の指名で決まるらしい。
「全力で辞退する。
実は露骨に嫌な顔を浮かべた。
今までだって、目立ちたくて目立っていたわけではないのだ。
中学の時にも生徒会長の打診はきたが、意地で辞退した。
それを晴人は隣で見ていて知っているはずなのに、何故こう言ってこられるのか謎である。
「あーもう、愛想がないなぁ。そこは乗るべきだろー。まったく……最近お前、性格変わったよなぁ。すっかり可愛げなくなっちゃって。……なのに、なんであんなに好評なんだか。」
「は?」
「え?」
晴人のぼやきに、実と拓也が
「え……実って、こっちじゃ友達少ない感じじゃないのか?」
「はあ? 違う違う。確かに女子とかには少し遠巻きにされてるけど、遠巻きにされてる理由は全然違うって。」
「でも、おれが実の友達だって言った時、すごく驚かれたんだけど……」
「ああ、この前のやつね。しゃあないって。村田、イケメンだもん。」
「……はい?」
拓也は、予想外の言葉に首を傾げた。
実も晴人の言いたいことがよく分からないらしく、眉は不可解そうに寄ったまま。
それを見て、晴人は嘆かわしいと言わんばかりの溜め息を吐き出した。
「あーあーあー……無自覚なイケメン君たちには、困ったもんだねぇ。オレの苦労も考えてよ。」
「お前の中に〝苦労〟って単語があるとは思わなかった。」
「ちょっ……実! それはないだろ!? オレだって人並みの―――」
「ハルちゃん?」
その時、後ろから晴人の名を呼ぶ声がした。
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