第9話 一悶着
リリアナは両手に魔力で作られた光輪を出していた。ホーリーリングという拘束魔法であり、光属性の魔法を得意とするエルフ属の十八番でもある。
「なっ、ちょっと待て!!」
「待ちません」
オレは慌てて逃げようとするが、すでに発動された魔法から逃れることはできない。
オレの手足は光の鎖によって縛られる。その瞬間、オレは体の自由が奪われ、指一本すら動かすことができなくなった。
「リリアナさんってこんなに強かったんですか……それならなんで……」
「ふふ、私はレストさんのファンなんです。的確な指示でエルフの里を救ってくれた恩人。あの時魔獣に襲われたのはフリでしたが、助けられているのは本当ですよ」
「……」
「ええ。そしてレストさんに惚れたのはその後です。私を助けてくれた時の優しい目を見て好きになりました。それからレストさんのことを考えない日はありませんでした。それで、今回ようやくチャンスが来たと思ったのに、振られてしまうなんてあんまりです」
「……」
オレはリリアナの熱烈なアピールに何も言い返せなかった。
「まぁいいです。どの道拘束されたあなたに為す術はありませんし、じっくりと攻略させていただきます」
リリアナはオレの前に立つと、ゆっくりと顔を近づけてくる。
「ちょ、マジか」
オレは焦るが、体は動かず抵抗することができない。そのまま彼女はオレにキスをする。唇から伝わってくる柔らかな感触に、オレは頭が真っ白になった。
ただ、凄かったものの完全に冷静さを失うまでには至らなかった。だってオレはルシアに何回も唇を奪われており、
耐性ができていたのだ。
「ふぅ、これで私のファーストキスは捧げました。あとはじっくりとレストさんを攻略していきましょう。どうやらキスだけでは勝ったとは言えないらしいので」
リリアナはオレから離れると服を脱ぐ体勢に入り、豊満な胸が露わになろうかという時、彼女の背後から剣を持った女性が現れた。
「レスト、大丈夫!」
「ライラがどうしてここに」
「事情は後で説明するわ」
「なんで邪魔をするんですか!」
「レストが嫌がっているのに無理矢理なことをするからよ!」
金髪を靡かせ、剣を構えるライラに対してもリリアナは怯えることさえなく槍を召喚し臨戦態勢に入る。
「邪魔者は排除します」
「させない!」
二人の戦闘が始まり、倉庫の側では金属音が鳴り響く。リリアナの動きはかなり早く、反応速度に長けたライラでも後手に回る素早さである。
冒険者から受付嬢になる道を辿る者も多く、受付嬢が強いというのは珍しいことではない。ただ、リリアナの場合はその強いといった枠組みを遥かに超えており、正直言ってオレなんて相手にすらならない化け物だ。
「くっ、強い」
「当然です。私はレストさんと結婚するために日々訓練をしているのですから」
「……」
「この気持ちは誰にも負けません。絶対にレストさんと結婚します」
「ポッと出のエルフの癖に、生意気よ!」
「なっ」
押され気味だったライラだったが、何をもってか急に奮起し、リリアナの槍捌きを捉え始めた。
「付け上がる前に崩す!」
ただでさえ速いリリアナの速度が急激に上がり、繰り出す突きの速さはオレでは視認さえできない領域に達する。それをライラは的確に捌いており、徐々にではあるが反撃へと移っていた。
「あはは、こんなに強いなんて、勇者パーティのライラさんも凄い方なんですね!」
「私だっていつまでも守られてばかりじゃない!」
「ふふふ」
「まだまだ!」
二人はいつの間にやら互角の勝負を繰り広げており、息もつかせぬ攻防が繰り広げられている。
そんな二人の戦いを見守りながら、オレは体を縛る光の鎖を解こうとしていた。
「くそ、やっぱり解けないか」
「ふふ、無駄ですよ」
ホーリーリングは拘束に特化しており、拘束している相手の魔力を少しずつ奪い取ることができる。そのせいで体に力が入らず、自力で抜け出すことは困難を極める。
「よそ見なんてしている場合かしら!」
「小賢しいですね!」
ライラが槍を受け止め、リリアナが剣を受け流す。オレを巡って二人は本気で村の真ん中で殺し合っている。
「レストさん、目の前の虫は私が駆除してあげますから!」
「あんたにレストは相応しくないんだから!」
このままではどちらかが死ぬ。そのように確信させるくらいの紙一重の攻防は続いているが、二人とも未だに息一つ乱れていない。
「流石にうざいですよ。こうなったらとっておきで消し炭にしてくれましょう」
膠着状態に嫌気が差したリリアナは槍に光の魔力を込め、いつでも解放できるように準備を整える。
「私だって負けない! レストを守るのはこの私! 世界でたった一人だけなの!!」
ライラも全力を出し切り、リリアナに対抗する。
「消えてください!」
「こっちこそ!」
二人が同時に力を込めると、眩い光が辺りを包み込み、爆発的な衝撃が巻き起こった。
こうなっては互いに無事では済まないと感じたオレは、おそるおそる爆発が収まった後の状況を確認すると、なんと二人は無事であった。
それもそのはず、爆発の中心には先程まで出掛けていたルシアがいた。
「お兄ちゃん大丈夫?」
ルシアが聖剣でオレを拘束する魔法を切り裂くことで、オレはようやく自由を取り戻した。
「ルシアがいなかったらどうなっていたことか」
「お兄ちゃんも大変だよね。変なのに絡まれてさ」
リリアナとライラはなおも武器を手に戦おうとするが、ルシアのあまりに素早い動きには対応できず、手に持った武器をはたき落とされる。リリアナに至ってはまだ魔法を唱えようとしており、往生際の悪さが滲み出ていたが、勇者ルシアに看破できないはずがなく、即座に見抜かれて剣によって脅しを受けることになる。
「次下手な真似をしたら即座に斬るよ」
「ぐっ!」
実力差に打ち拉がれたリリアナは発動しようとしていた魔法を唱えるのを止め、静かに俯いた。
「これで一件落着かな」
「そうだといいんだけど」
リリアナが大人しくなったことにより、オレ達の間に流れていた緊張感は霧散し、ライラとルシアは剣を納めた。
こうして村で起きた小さな諍いは沈静化し、オレも自由を獲得したわけだが、どうもライラとルシアの関係性がよろしくないことに気付く。
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