第7話 お兄ちゃんのため


 ルシアは涼しい顔をしながら、徐々に押し込んでいく。オーガは必死に押し返そうとするが、ルシアの力は圧倒的であった。


「それじゃあこれで終わりにしてあげる!」


 ルシアは聖剣を力強く振り下ろすと、オーガの胴体を真っ二つに切り裂いた。


「グギャアァアッ!?」


 オーガの断末魔が響き渡ると、やがて動かなくなる。そしてそれと同時に、粉々になって消えてしまった。


「ふーん、こんなもんかな」

「流石だな、お疲れ様」


 オレは労いの言葉をかけるが、ルシアは不満げな表情を浮かべていた。


「お兄ちゃん、もっと褒めてよぉ~」


 やはり妹が側にいるのといないのとでは、安心感が違うものだ。今、オレはとても満たされている。


「よしよし、頑張ったな」

「えへへ♪」


 頭を撫でてやると嬉しそうにするルシアを見て、思わず笑みをこぼしてしまった。

 オーガを倒した辺りには使えそうな木材がたくさん転がっている。人だけの手ではとても回収しきれない量の木材だが、オレがテイムしているスライムたちなら問題なく集められるだろう。


「お前たちにはこの木材を集めてもらうからな」


 オレは足元にいたスライムたちを呼び寄せる。すると大量の木材を目の前にしたスライムたちは、大喜びしていた。


「ピキィッ!」

「キュウゥッ!」

「キャッキャッ」


 元気よく返事をしたスライムたちが、我先にと木材を飲み込み始める。その様子を見ていると、まるでおもちゃを与えられた子供のように思えた。


「ほら、あまり遠くまで行くんじゃないぞ」


 スライムたちはオレの言うことを素直に聞き、一定の範囲内で木材を取り込んでいく。オレはその間に、先程の戦闘で得たドロップアイテムを回収することにした。


「おっと、これはいいものを手に入れたな」


 オーガの持っていた剣は、かなりの業物であることが一目見て分かる。切れ味はもちろんのこと、魔力を込めることで威力を上げることが出来る代物であるようだ。オーガは知能が高く、物作りの名手であるドワーフ程ではないにしろ、かなりの武器を作れることが知られていた。


「これだけ良質な素材があれば色々と作れそうだ」


 ルシアがその剣を手に取ると、軽く振ってみる。すると風を切る音が鳴り響いた。さらに試しに魔力を込めると、剣から炎が上がる。ちなみにオレには重過ぎて持つことさえ敵わなかった。


「凄いな……これを解析すれば強力な武器を製造できるかもしれない」


 こんな武器を持ったオーガはこれまでに見たことが無い。実際、ルシアと何回か剣を交えたにもかかわらず、この武器は刃こぼれの一つさえしておらず、ルシアの聖剣でさえ傷を付けることは出来なかったのだ。

 オレは早速その剣を持って帰ることにする。


「魔獣の技術はあまり人間たちのところには流れて来ないからな」


 人間と魔獣は当然敵対関係にあり、今こうして殺し殺されの関係が続いている。

 そうした点から魔獣というだけでそれが関わるものに嫌悪感を示す人間も多く、魔獣の技術の研究はあまり進まないのが実情である。

 しかし、その技術は一部の国では重宝されており、その技術を応用して生み出されたものは人間の世界でも普及されていたりする。ただ、そういうところに限って技術を独占しているのがタチが悪い。


「お兄ちゃん、お待たせー!」


 ルシアが駆け寄ってくる。どうやらもう木材を回収し終わったらしい。


「お兄ちゃん、これ見てよ!」


 ルシアの集めてきた木材は質が良く、どれもこれも上質なものばかりである。


「さすがはルシアだな」


 オレが褒めてやると同時に、ルシアは嬉しそうに抱きついてくる。


「えへへ~、もっと褒めてもいいんだよ?」

「分かった、偉いぞルシア」


 オレが彼女を抱きしめて褒めてやると、ルシアは満足した様子だった。


「じゃあ帰ろうか」

「うん!早く帰ってご飯食べたいなぁ」


 ルシアは甘えん坊で、いつもこうやってベタベタしてくる。オレに対してはずっとこうで、他の人間を相手にした時とのギャップはかなり大きい。

 バルアスなど、他のパーティメンバーと話す時はかなり素気なく、虫を見るような冷たい目で話すことは当然のようにしており、自ら印象を底に落としている。

 幸いなことに、みんな妹を冷静沈着で口数が少ない、いわゆるクールキャラだと勘違いしていたようで、勇者としてならかなり頼りにされていた。


「そういえば他のメンバーはどうしてるんだ?」

「お兄ちゃんを連れ戻しに行く予定だったから待ってもらってるよ。ところでさ、なんで私がいるのに他の人の話をしているの?」


 しまった。妹は独占欲が強く、男女問わず他の人間の話をすると苛立ちを見せる。


「お兄ちゃんには私がいれば良いでしょ。他の奴らなんて私たちの肉壁でしかないんだから」


 妹が今サラッとパーティメンバーに対しての印象をカミングアウトしたが、やはりそういう見方だったのかとある意味安堵させられる。

 ルシアはオレに頭をぐりぐりと擦り付け、甘えてきていた。そんな妹の姿を見ると、とても可愛らしく思える。


「よしよし、オレはちゃんとお前のことが一番好きだぞ」

「えへへ♪私はもっと好きぃ♪」


 ルシアはオレの腕に絡みつくようにくっつき、幸せそうにしている。



 次の日、オレはオーガから手に入れた戦利品である剣を、鑑定スキルで解析にかけていた。


「これは……とんでもないものだな……」


 この剣はやはり、一般的に使われている武器より遥かに優れた性能を持っており、さらに言えばこの剣は普通の武器ではなく、魔剣と呼ばれるものに該当する。

 素材は火竜の鱗にオリハルコン、武器の作製には一般的な魔結晶を加工したものが使われている。おそらく、この魔剣を作り出した人物は相当の腕を持っていることが伺える。


「オリハルコン以外はありふれた素材だな。そのオリハルコンも険しいが近くの山で採れたとの報告があると聞いているし、明日にでも採取しに行ってみるか」

「お兄ちゃん……オリハルコンなら私が採取してこようか」


 ルシアは自信満々にものを言う。だが、オレは彼女の実力を知っているため、心配するようなことはなかった。


「ああ、頼む」

「任せて!」


 ルシアは胸を張って誇らしげにしていた。


「お兄ちゃんのためだからね」

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