第6話 素材探し

「いえ、あなたの観察眼や冷静さ、状況判断能力の高さには目を見張るものがあります。それに、いざとなった時の決断力や行動力は、この場にいる誰よりも優れています。その点を考慮しての決定です」

「……そうですか。じゃあ謹んで受け取ります」

「これからの活躍を期待しております」


 オレたちはC級冒険者の証である銅のバッジを受け取ると、早速身に着けておくことにする。


「えへへ、あなたならこれからすぐにB級になれますよ」

「ちょ、リリアナさん?」

「お兄ちゃん……このエルフ何……私のお兄ちゃんにくっつき過ぎなんだけど」

「お願いだから暴れんなよ」


 ルシアはオレにくっつくリリアナをとても鬱陶しがっているようで、今にも飛び掛かりそうな勢いだ。しかしそれを必死に抑えていると、リリアナがこちらを見て微笑んでいることに気づく。


「ふふふ、勇者様、余裕の無さが顔に出ていますよ」

「お兄ちゃん……やっぱり私、このエルフがどうしても好きになれないんだけど」


 ルシアは煽り耐性があまりに低いようで、顔を真っ赤にして怒りを露わにしている。すると、リリアナは更に煽るような発言をする。


「あらら、怖いですね」

「あー……ルシア、抑えてくれよ。じゃないと村が壊れる。リリアナさんも大人気なくルシアを煽らないでください!」


 オレは二人の仲裁に入ると、何とか落ち着かせることに成功する。ルシアはともかく、リリアナもオレにやたらと好意を持っているようであり、オレに言われると喧嘩をすぐに止めてくれた。


「……それでは、私は用事があるのでここで失礼しますね」

「ああ、また機会があればよろしく頼む」

「はい、こちらこそ。それと勇者様、もし困ったことがあればいつでも頼って下さいね」

「ふん、あんたみたいなエロエルフになんて、死んでも頼らないよ!」


 ルシアは憎まれ口を叩きながら、リリアナにあっかんべーをする。どうもルシアはリリアナが気に入らないらしく、事あるごとに突っ掛かっていた。


「こりゃリリアナさん、完全にルシアに嫌われてるな……」


 オレはため息をつくと、リリアナを見送るのであった。

 それから数日後、戦いの疲れを癒したオレはいつものように仕事に向かった。


「お兄ちゃん、今日もお仕事?」


 幸いにも魔獣が村に入る前に食い止めたので、復興らしいことは何もする必要ら無い。

 オレは変わらない日常が戻ってきたことを実感しながら、仕事を片付けていく。


「ありゃ、木材が足りないな」


 木材補充の日に魔獣討伐に出たのもあって、うっかり木材を採取して来るのを忘れてしまい、そのせいで貯蓄していた木材が底をついてきていた。


「仕方ない、ちょっと森まで行って取ってくるか」


 オレとルシアはギルドを出て森へ向かうと、慣れた足取りで木々の間を進んでいく。

 村の近くにあるこの森、道中にはゴブリンたちが生息しており、冒険者以外が安易に立ち入るのは危険である。

 危険な代わりに木材などの資源が豊富であり、オレたちの生活を支えてくれる大切な場所でもあった。


「さて、目的の木はっと……」

「お兄ちゃん、気をつけて」

「分かってるよ。ルシアは周囲を警戒してくれ」


 オレは辺りを注意深く見回しながら、ゆっくりと森の中を歩いていく。するとその時、草むらから何かが飛び出してきた。


「ギィッ!?」

「おっと、危ない!」


 咄嵯に飛び退いたおかげで、なんとか攻撃を避けることが出来た。オレは剣を抜くと、素早くゴブリンに斬りかかる。


「ギャアァアッ!?」

「よし、討伐完了」


 オレは妹の手を借りず、ゴブリンを討伐することに成功する。


「相変わらず強いよね、お兄ちゃんは」

「まぁ、これでもそれなりに修羅場は潜ってきたからな。ゴブリンくらいには遅れは取らないよ」


 オレは弱いとはいえ、弱者なりの戦い方を心得ている。オレが大事にしているのは自分や周りの命を守ることであり、そのためならばどんな手段を使ってでも生き延びるつもりだ。


「スライムたち、出番だ!」


 オレはここでスライムを召喚し、素材を集めるために周囲の探索を行わせることにした。するとすぐにスライムが戻ってくる。


「お兄ちゃん!近くに大きな魔力の反応があるよ」

「まだいるみたいだな。安全を確保するためにも倒すべきだ」


 オレはルシアと共に、巨大な反応のある方向へと向かっていった。


「グゥウ……グルルル……」


 魔力の反応を追い掛け、その場所へとたどり着くとそこにはオーガがいた。


「こいつは中々大物だな……」


 普通の個体よりも一回り大きい身体をしており、手に持っている棍棒もかなりの大きさを誇っている。恐らくこの辺にいるモンスターの中では、上位に位置する存在だろう。


「お兄ちゃん、ここは私がやるよ」


 オーガはオレ単体の戦闘力ではかなり苦戦する程の強さを誇るが、ルシアなら朝飯前程度にしか感じないだろう。


「分かった。援護は必要か?」

「ううん、大丈夫だよ。私一人で余裕だから」


 ルシアは自信満々な様子で答えると、オレは後ろの方へ下がる。


「それじゃあ、いっくよー!」


 ルシアが引き抜いた聖剣は煌々と輝き、鬱蒼とした森の中でもその光はハッキリと見えていた。


「グォオオッ!!」


 オーガは雄叫びを上げながら、ルシアに向かって突進していく。しかしそんな攻撃をものともせず、ルシアは聖剣を振りかざす。

 オーガの持つ剣とルシアの聖剣がぶつかり合う。普通であればルシアの方が力負けしてしまうのだが、勇者の力はその力の差を埋めるに足るものである。

 ただ、これが勇者ルシアでなければどうなっていたのかは想像に難くない。ルシアがいない状態、つまりオレ一人で相対していたら間違い無く死んでいただろう。

 それにルシアが今剣を交えているオーガは明らかにこれまでのオーガと次元を異にする強さを誇っている。

 あのルシアが魔獣と切り結んでいるのは実に久々である。オーガの持っている剣の質も、勇者用に特注してあるルシアの聖剣に勝るとも劣らないくらい高い。流石に質で比べるなら聖剣に軍配が上がるものの、そこらの武器では比較にならないくらいにかなり強力なのが伺える。


「ぐっ、ぬぅう……」

「どうしたの?随分と苦しそうだね」

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