第5話 ヘルハウンド
冒険者たちと魔物の群れの間で、すでに戦闘が勃発していたのだ。
オレはヘルハウンドに対抗するだけの最低限の装備を整えて出発しようとすると、ルシアが道を塞いだ。
「私も連れて行って」
オレではB級のヘルハウンドに勝つのはかなり難しい。ステータスオールFでは無様に倒され、村をピンチに曝すだろう。
できれば妹が勇者だとバレるような真似はしたくないのが本音だが、そんな自分勝手かつ悠長なことをして村が全滅しては、オレは一生の後悔に苛まれる。
「分かった。着いて来てくれ」
つまらないプライドと村の安全を天秤にかけたら、確実な安全のために強い妹、勇者ルシアを連れて行くことはオレの中で当然の選択であった。オレたちはヘルハウンドたちがいる場所へと向かうと、そこでは冒険者と魔獣が戦闘を繰り広げていた。
「くそっ!」
「この数じゃ無理だ!」
冒険者は押されているようだった。
それもそのはず、ここの冒険者や傭兵はC級が関の山であり、B級冒険者相当のヘルハウンドが率いる群れに苦戦を強いられるのは必然だ。
オレはすぐさま弓を構え、矢を放つ。それは見事にゴブリンや命中し、敵の数を減らすことに成功する。
「ルシア、お前はあのデカ犬を殺れ。他は他の雑魚の相手をするんだ」
オレはそう指示を出すと、ルシアは即座に行動に移し、剣で五頭いるうちの一頭をあっさりと叩き割る形で仕留める。ヘルハウンドはたかがゴブリンのように何もする間も無く絶命し、半分に斬られた状態で倒れ伏す。
流石は勇者の力を己の努力でしっかりと高めてあるだけあって、その実力は本物だ。冒険者たちは彼女の活躍に大層驚いている。
「なんだあの女の子」
「凄く強え」
オレにはもちろん彼女のような力は無いので、他の冒険者たちに注意が向かないように、弓を放ってヘイトを集めていた。
ヘルハウンドはしっかりとオレを狙って来ている。
「スライムたち、ヘルハウンドを足止めしろ!」
あらかじめ召喚していたスライムたちに残りのヘルハウンドの足に張り付くように命令し、動きを阻害する。だが、オレにはヘルハウンドにとどめを刺すことはできない。
とりあえず拘束はできたものの、格上のヘルハウンドはすぐに拘束を破り、攻撃を仕掛けてくるだろう。だからその前に一気に畳み掛ける。
「ルシア、今だ!」
「うん、分かったよお兄ちゃん!」
ルシアは軽々と重たい聖剣を振り回し、ヘルハウンドの首を切断した。こうして魔獣の群れの襲撃は無事に終わった。
「いやぁ、助かったよ。君のおかげで俺たちは生きて帰れそうだ」
冒険者の男が礼を言ってくる。オレは結局のところ、ルシアにほとんど任せっきりにして自分は足止めに終始しているだけであり、ルシアはともかくオレの功績というのは微々たるものだ。それでも村人たちから感謝されるのは嬉しくないわけではない。
「いや、オレは何もしていない。倒したのは全部彼女だ」
「い、いえ、私はただ……」
「謙遜することないさ。俺もあんな風に強くなりたいと思うぜ」
残ったゴブリンたちは敗走していくのもあって冒険者の敵ではなく、後は自暴自棄になって襲ってきた連中を倒すだけであり、オレは怪我人たちを持って来たポーションで治す作業に徹していた。
「よし、これで終わりだな」
オレは最後の一体を倒し、仕事を終えると村人たちが歓声を上げる。
「ありがとうございます! 本当にあなた様方のお陰です!」
「私からも心より御礼申し上げます」
「いや、オレたちは冒険者としての当然の義務を果たしただけだ。気にしないでくれ」
オレはそう言って立ち去ろうとすると、聖女様が駆け寄って来る。聖女様の方も魔獣を粗方殲滅したようであり、当面の危機は去ったと言えるだろう。
「待って下さい! まだ傷が癒えてませんよね?」
「あー……大丈夫ですよ。これくらいならポーションを飲めばすぐに直りますから」
「ダメです! しっかりと治療しないと危ないですよ!」
「そうですね。それが良いと思います」
聖女様の言葉にルシアが同意する。オレとしても断る理由はなく、むしろありがたかったので二人に従っておくことにした。
「ではこちらへどうぞ」
オレは聖女様に案内されるがままに付いて行くと、彼女が泊まっている宿屋に連れて行かれる。そしてベッドに寝かされると、服を脱ぐように指示される。
「まずは上半身の方を診させて頂きますね」
「……分かりました」
オレは渋々上着を脱いで上半身を晒すと、彼女は回復魔法を使ってくれる。淡い光がオレの体を包むと、みるみると傷が塞がっていく。
「凄いなこれは。こんな高位の魔法は見たことがない」
「ふふん、凄いでしょう? 私もまだまだ修行中の身ですけど、もっと頑張っていつかは世界中の人々を救いたいんです」
「あなたならなれますよ」
「ふふ、まだ事をなしてもいないのに褒められても、何も出ませんよ」
聖女様の治療を受けている間、オレはルシアの視線が妙に気になった。それは羨望というか嫉妬のような感情が混ざったような目で、何故そんな目をしているのか分からなかった。
それから下半身にも治癒を施すと、傷で疲れた体が一気に軽くなったように感じる。
「よし、これでいいでしょう。もう動いても問題ありませんよ」
「ありがとうございます。助かりました」
「いえ、これが私の務めなので」
「じゃあそろそろ帰りますね。ルシアも怪我治してもらうか」
「要らない……」
ルシアはやはり、オレ以外を全く信じていないようであり、頑として譲ろうとしなかった。
聖女様の治癒魔法のお陰ですっかり怪我が完治し、オレたちは再び冒険者ギルドに戻って報告することにした。
そこには既に他のパーティの姿は無く、オレたちだけが残っていた。
「リリアナさん、魔獣討伐完了しました」
「ご苦労さま。それで被害状況は?」
「はい、幸い死者はゼロでしたが負傷者は多数いました」
「そうか……よくやったな」
リリアナはオレたちを労うように言うと、報酬について説明を始める。村に訪れた危機を退けた功績はやはり大きいようで、かなりの金額を貰えることになった。
「それと今回の活躍に応じて、レストさんのランクを一つ上げることにしました」
「えっ!?」
「D級からC級昇格、おめでとうございます」
「いや、でもオレにそこまでの実力はありませんよ」
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