第6話 元異能者(ゼロ)から始める傍受(インタセプト)生活
元異能者(ゼロ)。
それは、かつて異能の力に目覚めたものの、時間経過とともに力が消えてしまった者、もしくは力自体は残存しているが、本来の異能が発揮できなくなった人類。
実異能者については国によって管理されてしまうため、早い年齢で"サイレント"との戦闘に駆り出される事が多いが、元異能者となれば多少扱いは緩くなる。
というのも、一度異能が冷めてしまえば、後は無能力者へと収束していく事が殆ど。
神奈川県横浜市では、学生の元異能者と無能力者は混在の形を取っている。絶対数が多くない元異能者は、ほぼ一般人と変わらない扱いなのだ。
それはここ、「横浜統合」も例外でなく――
「あら、そういう事」
階段を眺める彼女もまたそうだった。
「全く、自分の"耳"というのは、ひどく余計なものね。どんなに離れていても聞きたくない事まで聞こえてしまう。良いものも悪いものも、一瞬で崩れる」
漆黒の長髪を手で触り、その小さな耳を隠す彼女。
元異能者の、生徒。
「とても残念だけど、生徒会長として見過ごせないわ――磯子瀬谷子(ダンス=ダミン)さん」
名を、鶴見泉見(つるみいずみ)という。
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さして仕事の多くない学級委員であるか、月に一回の定例会には参加せねばならない。
中高等部を含めた各学年の学級委員以外にも、各委員会、各部活の代表者が集まり、学校自体の事柄とは別に、"サイレント"の現状を共有する。
それがまた、長丁場。
「先日だけでも本校13名、西校9名、北校5名、東と南校併せて3名の生徒が"サイレント"の襲撃被害に遭っています。国から居住区として認可されている地域ですらこの数字。もう神奈川県を始め、関東は安全圏(セーフティゾーン)とは言えない程、侵略が進んでいます――」
「この前も、静岡方面の居住区が消滅。本校を始め受け入れ先に続々避難民が溢れており――」
「お渡ししている資料35ページに本校の今後の動向と取り組みが――」
代表者のみと出席とは言え、わざわざ体育館に集められるのは、まさしく生徒数の多さに比例する所以。
その名の通り横浜統合は、不定期とは言え避難民の受け皿を担う。
襲撃のために居住区から離れた者は新たな居住区を探し、そこで暮らす。当然人口密度も増加傾向となり、受け皿の学校は肥大化するのは自明である。
そうやって横浜にある既存の学校法人が統合されていった結果が、この学校なのである。
そして、この問題をとして捌くのが、本校の高等部の生徒会のメンバーたち。
学校の諸業務、行事運営はもちろん、今までにも積極的に"サイレント"との問題を対処してきたエキスパートたちが集結しており、総じて学校の顔と呼べる人材。
その緻密な性格を表すかのように、体育館の特大のプロジェクターに映し出される情報は、非常に細かく量が多い。
が、命に関わる重要な内容に違いないとは言え、一般の生徒にはさすがに眠気を覚えるレベルであった。
「つきましては、生徒の皆さんは引き続きの安全確保と、不要な外出の禁止を徹底してください。"サイレント"の突発的な襲撃は、基本的に学校の外で発生します。必要な場合は、学生寮の貸し出しも無償でしてますので、都度相談ください」
そうして冗長気味の連絡が終わりそうなところ、集中が切れたのか、合間に一部生徒の私語が挟まる。
「そこ! まだ話の途中です。静かにして――」
マイク越しに厳しい口調で注意を促そうとした生徒会副会長。しかし、それを遮ったのは教員ではなく、副会長とともに登壇していた生徒会長務める3年生、鶴見泉見だった。
「星川副会長、中等部バスケ部の彼は"毎度同じ注意喚起の文言で聞く気失せる"と言ってるみたいよ。これは一生徒から我々へのご意見、ちゃんと聞いてあげましょう」
にこやかな泉見の表情に、副会長は少し言葉に詰まりながら「かしこまりました……」と渋々納得の意を示した。
それに少しばかり騒めく体育館。
鶴見泉見。
生徒会会長。
彼女は――
「発言されたのは、阪東橋君、でしたよね。進言ありがとう。でも、今はこちら側が話しているので、会議が終わってからお願いね」
え……? と困惑顔の件の彼。周囲も同様。この大きな館内で登壇者に聞こえる声じゃなかった筈だが。
「お願いね」
笑顔を崩さぬ泉見。全くもって威圧するような雰囲気はないのに、勝手に体が膠着するかの感覚があった。なんだ、彼は――何をされた? そんな疑問もすらも飲み込まざる得ない空気が漂う。
「さて、星川副会長――締めの前に"例の件"の事を」
「は、はい」
――これが鶴見泉見という少女。
生徒会長。
元異能者。
横浜統合の傍受人(インタセプター)
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(出やがったな、鶴見会長)
高等部2-1の学級委員は、その事実に気付いていた。
自分以外の元異能者。生徒会長という地位に昇り詰めたのも、その力ありきであったとか。
彼女は一体何故にそこまでしたのか不明だが、あれは確実に何かある。
誰も口にしないが――出来ないが、青人はそれを強く思っていた。
何を企んでいる。
貼り付けた愛想の良い仮面が、こちらに向いていた気がした。
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