入道雲
入道雲を駆け上がる。
忙しく蹴り出すも思うようには進まない。膝を上げ大きく踏み出すはしから崩れる、砂を掻くような感触。雲の破片は飛び散ってふくらはぎに跳ね、ひんやりした感触はすぐさま肌に馴染んで消える。
進むほどに勾配はきつくなり、両手も加えて四つ脚で登攀する。さてどれほど登ってきたかと腰を伸ばすと、驚くほど高いところまで到達していた。
眼下に広がる景色は、自分が住む街。不思議と確信があった。目印になるのは鉄塔、それから緑の小山は神社の守り。ならば住まいはあのあたりだと見当をつければ、薄茶色のマンションはすぐに見つかった。
ついつい夢中になって身を乗り出していると、不意にぐらりと視界が傾ぐ。
「うおっ」
ただでさえ小さな足場がぼろりと崩れていくのが彼方に見えた。
(落ちる!)
肩に衝撃、後頭部に星。
浮上した意識が、朝の光をとらえた。
*
「おい、大丈夫か」
物音を聞きつけて部屋の戸を引いたのは、家主である。
「いってえ」
「そろそろ起きたほうがいいぞ」
先輩はすでに身支度を済ませ、前髪もぱりっと上げてちゃんとした社会人の顔をしている。一方俺は、ベッドから落っこちてまだ半分夢の中だ。
「なんか、なんかに似てたんだよな」
「まだ寝ぼけてんのか。俺もう出るからな」
付き合いのいい先輩も、さすがに俺の半寝言にまでは付き合ってくれない。先輩が出ていってドアが閉まり、風圧で室内の空気が行きつ戻りつする。その間も、俺は入道雲の正体を考えている。
「あ、わかった」
ミルクセーキだ。ほぼアイスの、シャリシャリのやつ。
スッキリしたら一気に目が覚めた。外は快晴、暑くなりそうだ。さて、今日の空に山盛りミルクセーキは出現するだろうか。
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