第15話 着物の少女③

「花代ちゃんは本当に賢いね! 賢いっていうか、勘が良すぎるって感じかな。凄い才能だけど気をつけなきゃダメだよ? さっきのも私が本気だったら呆気なく死んでたんだからね」

「ご忠告どうも。それで、事情の説明はしてくれるのかしら?」


 少女は少し悩み、首を横にふった。


「んー、ちょっと私からは言いたくない部分が多いから。秋人が帰ってきたら直接聞いてもらってもいいかな?」

「……秋人が帰ってきたとして全て覚えてる状態で帰すつもり? 私達も含めてだけど」


 その言葉を聞いた東郷が神妙な面持ちで、残念そうに話に入る。


「なんだなんだ、せっかくこうして神さんと出会えたのに、忘れちまうのは悲しいじゃないか」

「何よもう、東郷ちゃんマジ好き! 私達ズっ友だよ!」

「ソウルメイトって奴だな!」


 "あっはっは!"と笑い合う二人を見て再度坂崎は東郷の尻を蹴り合げた。


 "あだぁ!"と東郷は尻を押さえる。


「なになに? 私と東郷ちゃんが仲良くしてるのが気に喰わないのかなー? 嫉妬かなー!?」

「なに!? 嫉妬してるのか……坂崎」


 ギロリと坂崎は二人を睨みつける。


「あんた達の意味わからない絡みのせいで、いちいち話しが止まるのよ。話を戻してもらってもいいかしら?」


 "あれ……なんだっけ?"と若干首を傾げながら、少女は必死に思い出す。


「えーっと……ああ! 記憶のお話だっけ? そのまま帰すよ! 君達二人も含めてね!」

「……それは、消すこともできるけどあえて消さないということかしら?」

「そうだね! 消しちゃったら全て意味がなくなっちゃうからさ」

「……秋人達のことはよくわからないけど、私達の場合は消した方が良いんじゃないの? 認知されたらまずいのでしょう?」

「騒ぎにならなきゃ認知されても別に構わんよ? 周りに言いふらしたところで、どーせ誰も信じちゃくれないしね!」


 "まあ、確かに……"と少し虚をつかれたような表情の坂崎を見て、なぜか少女は勝ち誇ったような表情を浮かべ話を続ける。


「まあ、記憶を消さない目的は二つ。一つは、君達に同じ行動を繰り返させないこと。もう一つは……頼みがあるの。君達の前に姿を現したのもそれが本命」

「ほう、ソウルメイトの頼みとあらば聞かない訳にはいかないな!」

「内容も聞く前から返事するんじゃないわよバカゴリラ。……先に聞いておくけど、それを断ったらどうなるのかしら?」


 そう問いかけつつ坂崎は強く睨みつける。

 嫌悪感を当てているかのような坂崎の反応に、少女は若干悲しそうな表情を浮かべた。


「んー……。どうもしないかな。これは対価もない単純なお願い」


 そうしおらしく話す少女に対し、坂崎は強ばらせていた表情を緩め"ふーっ"と一息吐く。


「……あんたの力があればいくらでも脅迫できるんだろうけどね。何一つ信用しちゃいなかったけど、一段階警戒をとくわ。とりあえず内容を聞きましょうか」


 坂崎の言葉に少女の表情がパっと明るくなる。


「さすが花代ちゃん! ただのサディスティックいかれ武士かと思ってたけど、想いが通じてよかったよ!」

「……あんた、私のことバカにしてるでしょ?」


 "フルフル"と首を横に振り、笑顔を見せながら少女は否定する。


「バカにするどころか、花代ちゃんの賢さは信頼してるよ? だからこその頼みかな。秋人は優しいけど、不器用なところがあるからね」

「秋人絡みの内容……?」

「ある意味ね。まあ、そんな難しいことじゃな

いよ」


 そう前置きをしつつ、少女は坂崎と東郷に話をはじめる。夕暮れが始まり、西の空には茜色の夕焼けがすでに佇んでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る