幕引き

第一幕 「人と繋がるドラゴン」 結


 可能性の未来に、竜殺しはまだ居ない。


 己の尾をみ、途切れずの円を成す蛇。此れは循環・永遠・不朽の象徴シンボル。あるいは全にして一、一にして全。または相反する性質の合一。

 生死の垣根ない命、進退のない零と一に回帰する道程、完全不変の円。その概念。それは非実在の幻想存在ドラゴン


 これすなわち、――円を成す蛇『ウロボロス』。


 

        …………



 ドラゴン/龍(竜)には瑞兆ずいちょうの化身であるという考え方がある。化身を瑞獣ずいじゅうと呼ぶ。瑞獣が姿を現す時、その時代は繁栄し、時代の支配者を祝福するという。


 では、ウロボロスという幻想の瑞獣が出現した場合、その祝福が意味するものとは何か。

 『円環』の時代とはどういうものか。


 例えば、こういう世界もありえるだろう。

 

――不変の機械生命だけが唯一人とされ、それ以外の生き物は消費物となりさがり、世界は管理の下に完成された。底のない安定と循環の上に成立した社会、完成されて停滞した世界。天上の浮遊城、『三眼の管理者』、『企業連』。中核となるのは、無限のエネルギー源となる円環機構。機構の名は『ウロボロス』。

 

 世界を破壊しようと九人が立ち上がった。八人死に、最後の一人が残った。

 この世の贅沢を極めたい『三眼の管理者』は九人目にこう持ち掛けた。


――「我らのためだけに。お前が語る物語を全て記録する。物語が続く限り処刑を延期する」


 九人目の命がけの物語りが始まった。


        …………


 現実ではない空間、時間のない場所でウロボロスは夢見る。


 非実在の概念であろと、ドラゴンであるならば。

――自らの竜殺しが現れてくれないか、と。

 

 ウロボロスが望むのはドラゴンの宿命――ドラゴンは欲に溺れ、己を殺す運命を持つ英雄と邂逅し殺される運命。


 つまるところ、ウロボロスは竜殺しに殺される展開を待っていた。


 自分の竜殺し――運命の相手。最愛の刃。

 竜殺しに殺されたなら、己も世界に刻まれる物語になる。

 物語はウロボロスに許しをくれる。

 繋がりが世界に存在していい、と証明してくれる。

 だから、ウロボロスはいつも夢見ている。

 自分を殺す竜殺しが誕生して、大好きなドラゴンの物語のその一つになれたなら。


「きっと、とても嬉しいんだろうなぁ」


 

   第1章 「人と繋がるドラゴン」 結



             ――――


 【お知らせ】

 《夏の短編集》を応援してくださり、読んでくださりありがとうございます。

 この4作品は「面白い性質や特性があるドラゴンの紹介」を想定したもの。大枠の物語としては本編が始まる前の第零章みたいなものです。

 次回からは大枠の物語も深めていく予定で、第一幕と題した今回はその予告を想定しております。

 《夏の短編集》は一先ず終わりますが、『あなたとドラゴンの夜話 継語』としてシリーズは続きます。続きをお待ちください。


  

 

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2022夏の短編集 ~『あなたとドラゴンの夜話』~ 桃山ほんま @82ki-aguri

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