第4話④

「黄金果実は一本の木で、たった一個しか実をつけない。しかも、その実が枝を離れたとき、黄金果実の木は枯れる。つまり、たった一度しか実をつけない木なんだ」

「もちろん、木としての植生もある。だから、時期によって葉も落ちる」

「ヘスペリデスが任されている管理って言うのは~、木が枯れないようにすること~」

「黄金果実の木は土地から生命のエネルギーを吸い上げて自らを維持する。だから、土地を生かすことが私たちヘスペリデスの仕事」

「見回りしながら、病んでいたり傷んでいる部分を癒したり、切り離したりする」

「も、森も植物も動物も。ぜ、全部が元気でいられるようにする」

「そんな大変な仕事を一人で全部やることはできない。わたしたちは時間割を決めて交代しながら管理しているの」

「木の方はそれでいい。だが、果実の方は特別だ」

「果実には歌が必要なんだ!」

「歌を聞かせると、果実は力を失わずに枯れることも傷むこともない。不老の果実という訳です」


 以上が黄金果実の園を管理するヘスペリデスの役割説明。

 ヘスペリデスはラドンをあっさり受け入れた。ヘラの命令だからという理由でなく、ヘスペリデスがラドンに好印象を持っていたのが理由としては大きい。

 ラドンが任されたのは黄金果実の護衛なので、ラドンの仕事場は自然と黄金果実の木がある小高い丘に決まった。

 黄金果実を一個だけ実らせる木が頂点に生えている丘。そこを蜷局を巻くように囲んだラドンは思考に力を割いていた。

 思考しているのは兄弟姉妹の関係性と、己が何故兄弟姉妹として生まれたのか。

 長い間思考しているが、納得のいく答えが出そうにない。


「……」

「おーい、ラドン!」


 ラドンを呼ぶ声が聞こえて、ラドンは半分覚醒した状態で片目を開けた。

 丘が見える場所にアレトゥーサが居た。周囲は既に陽が落ちて、夜になっていた。

 ヘスペリデスは時間割で黄金果実に歌を聞かせに来る。その度に皆、歌い終わった後に次へ交代するまでラドンと話していく。


「……もう夜か。今からか?」

「やっぱり聞いてなかったね。もうアタシの時間は終わり。アイリカーに交代するんだ」

「そうか」

「ずっと悩んでるね。ラドンみたいに高性能な奴でも解けない悩みがあるんだね」

「……貴様らのせいだ。一番はヘスパラだ」

「ん~……そう言うってことは、兄弟姉妹の関係について考えてたんだね。何が気になるのさ?」

「何故、お前に話さなければならない」

「ここから動けない奴がアタシら以外に誰と話すってのさ」

「……争い合い、競い合い。我ら両親の望みで、それが我ら兄弟姉妹の常だった。一目で怪物だと思われる兄弟姉妹に対して我を視ろ。見た目ではただの蛇だ、その機能も多言語が理解できる。誰がそれを怪物だと恐れるものか。失望したのか、テュポーンもエキドナも我と喋ろうともしなかった」

「残酷な関係ね、やっぱり」

「何故、そう思うのだ? 強い個体になるには必要な争いだ」

「兄弟姉妹とは絶対に一人じゃないからよ。必ず二人以上で、どうあれ繋がるものだから。アナタの兄弟姉妹の関係は、孤独になるためにあるような儀式」

「強い個体は孤独だろう」

「それはきっと正しい。けれど、強いから孤独なのと、孤独だから強いのは違う。アナタの関係性は、強さと孤独の誤りを力ずくで同期させようとしている。だから、アタシたちには残酷に映る。アタシたちは一人になったら、悲しい運命があるだけだから」


 悲しい運命。このギリシャでそれは、避けられない運命の結末を意味する。

 ラドンは驚いて首を上げた。


「ヘスペリデスには、既に運命が出ているのか?」

「全員じゃない。けど、アタシは決まってる。アタシが一人のとき、水浴び中に神に見初められて神から逃げる。その果てにアタシは泉になっちゃうんだって」

「……一人になれば死が待つ、か。お前らはやはり弱い個体だな」

「そうよ。だから、姉妹の繋がりが愛おしいの。繋がりにはもうアナタも居るんだよ、ラドン」


 アレトゥーサの手がラドンに触れる。


「……煩わしい。迷惑だ」

「私の見解が二つある。一つ、怪物テュポーンとエキドナがアナタを避けるのはアナタの頭脳が高性能で恐ろしかったから。二つ、アナタが怪物じゃなかろうと、アタシたち姉妹はアナタを信頼してる」

「……アイリカーが来たぞ」


 アレトゥーサはラドンから離れる。

 その途中で振り返って、夜を担当する女は言葉を付け加えた。


「三つ、蛇の見た目が好きな娘も居るわ」


 アレトゥーサと入れ替わりで、アイリカーがひきつったような笑みを浮かべて近付いてきた。


「あ、ら、ラドン。こんばんわ。よ、よろしく、ね。え、えへ、ふへへ……」


 最初に比べてアイリカーもラドンに慣れて喋れている。生来の下手さは拭えないが、これは個性だとラドンも割り切っていた。

 アイリカーはラドンから距離を取った場所に座り、少しずつ控えめに距離を詰めてくる。ラドンが何も言わないでいると、途中で速度を上げてラドンに寄り添う。それでも背中の一点だけがくっつくかくっつかないかぐらいで、身体を預けるのを避けていた。

 それでも好きにさせていると、遂にアイリカーは心を落ち着かせて完全に身体をラドンに預けた。


「ぁ、あの。じ、じゃあ、そろそろ……」

「待て。アイリカー、聞きたいことがある」

「ひゃい!? な、何……?」

「お前は孤独が恐ろしいのか?」

「……こ、こんな性格だけど、姉妹がいるからぼっちじゃない」


 アイリカーは顔を真っ赤に染めて続きを口にする。


「けど、し、姉妹が居なきゃぼっちになる。姉妹が居なくなったら寂しいよ」

「……そうか。少しスリープに入る。静かな歌で頼む」

「う、うんっ」


 歌っているアイリカーは言葉が詰まることもなく、綺麗な声音を響かせる。

 旋律の中でしばらくの間、ラドンはスリープ状態になった。

 浮かぶような微睡み。

 ラドンの感覚が、遠い地に居る姉キマイラが英雄に殺されたことを感知した。

 その瞬間にラドンの感覚が理解した。

 やはり、己はヘスペリデス姉妹のように兄弟姉妹を愛しく想えない。

 殺されたキマイラを羨ましい/妬ましいと想っている。

 女神も言っていた。

 英雄に殺されるとは、怪物の安寧なのだから。




                ―――――



 とある軍隊がヘスペリデスの園に上陸した。

 ティーリュンスの王が派遣した隊で、目的は神の黄金果実を手に入れること。

 船が二隻、総勢十二人の隊。どの兵士も選りすぐりだが、中でもアッタロスという熟練の兵士は図抜けていた。

 アッタロスはこの冒険のためにティーリュンスの王に召集された退役兵士。若かりし頃、冒険に出て恐ろしい猪にも勝ったという逸話を持つ。今回の旅には若い兵士が多く、冒険経験者のアッタロスは頼りにされていた。

 腰に剣闘士が使うような短い剣を差し、それを吊るす革のベルトに手を引っ掛けて、木陰から荷下ろしをしている兵士たちを眺めているアッタロスが声を上げた。


「は~い、皆さん注目―」


 作業の手を止めて、兵士たちがアッタロスの方を見た。


「はい、どうもね。アッタロスさんです。キミらにね、ちょっと言っておきたいことがあります。しっかり聞いてください」


 一体どんなことを話すのか、兵士たちは期待を込めて待機する。

 手で陽射しから眼を守りつつアッタロスは木陰から出てきて兵士の前に立つ。


「まずね、作業ご苦労さんです。助かってますよぉ、ホント。けどね、キミらね。このギンギラギンの陽射し、真下に居るんだからわかるでしょ。こんな環境に居たらすぐに倒れちゃうって。ほら、もう汗だくじゃん。しっかり水分摂ってる? ん?」

「い、いえ。荷下ろしをするように隊長に言われてますので。作戦行動中に水分補給など」

「などって何? 体調管理も作戦の内でしょ。それでその隊長はどこで何してるの?」

「はっ。あちらで休まれております」


 早々に体調を崩した隊長は木陰で涼んでいた。鉄兜が熱で変形して取れなくなっていた。


「絶賛ダウン中じゃん。あれ見てダメだってわかるでしょ」

「い、いえ、しかし! 荷下ろしは隊長からの指示で」

「はいはい、わかりますよ。けどね、休憩しつつ交代しながらやったっていいんですよ。現場指示の隊長は意識ないんだし。適度にサボりながらやりましょ」


 適度に手を抜くことに慣れていない兵士たちは戸惑っている。見かねたアッタロスが指示を飛ばす。


「そこ、そこも。キミからそっちまで! 全員木陰で休憩、水分とって塩舐める! 残ったキミらはまずは水分補給してから荷下ろしの続き。五分後に交代! ……ほら、動いた動いた!」


 混乱していた兵士たちも、指示を受ければテキパキとそれ通りに動き出した。

 アッタロスは寝込んでいる隊長の所にやってきて、同じように涼む。


「ふぅ……こういうのやらなくていいって契約だったのに」

「す、すまん。アッタロス殿」

「ホントですよ、隊長殿。意気込むのはいいですが、作戦とは違って冒険するなら体調管理は最優先。動けなくなった奴から死んでしまうんですから。炎天下で休まずの力仕事とか、自殺行為ですよ」

「し、しかし、黄金果実が」

「だからって人手を減らしてもいい理由にはならない。それに、冒険中は自分の指示に従ってもらう約束ですよ」

「ぅ……わかった。この島での指揮権を貴殿に預ける。どうか頼む」

「わかりました」

 

 アッタロスは立ち上がり、腰の剣を触りながら隊長に告げる。


「数名を連れて偵察に行ってきます。荷下ろしと拠点の設営が終わったら待機と休憩を。我々が昼を過ぎても帰ってこなかった場合は最低限の荷だけを持って脱出を。いいですね?」

「ああ」


 休憩中の兵士から数名の選んだアッタロスは島の偵察に出かけた。

 少し体調が回復した隊長はアッタロスの指示を守り、荷下ろしと設営の監督をする。



               ―――――

 


 アッタロスの偵察隊は森の中で屋敷を発見した。

 その屋敷こそ、ヘスペリデスの屋敷だった。

 今はエリュテイアが歌う時間で、屋敷には他のヘスペリデスが残っていた。

 一人の兵士がヘスペリデスを見て生唾を飲み込む。


「……イイ女ばっかりじゃないか。たまらねえな」

「ああ。……水浴びとかしてくんないかな」

「恐らくアレらがヘスペリデス、ニンフだろうな。若いと性欲旺盛なのはわかるけど、ニンフに手を出すと碌なことにならないよ」

「「は、はいっ」」


 若い兵士にニンフの恐ろしさを教える必要があると感じながらも、アッタロスは屋敷を注視して中の人数を数える。

 冒険で培った経験による対策である。

 ニンフが人を騙したり、誑かしたりするのは冒険に付きものの罠だ。正確の数と顔を覚えておくと対応も可能になる。


「九人……よし、地図を」


 地図を受け取ったアッタロスは屋敷の場所をマークして、余白部分に各ヘスペリデスの特徴を書き出す。

 その後、アッタロスは屋敷に一人近付いた。

 中の声を聞ければ、何か情報を得られるかもしれないと踏んだのだ。

 難なく気付かれることなく接近し、食堂の窓下に隠れて聞き耳を立てる。


「――」

「……?」


 ヘスペリデスの会話は聞こえた。しかし、期待通りにはいかない。

 彼女らが使う言語が理解できないのだ。内容が全く分からない。


 ――これじゃ、ニンフを脅して情報を引き出すこともできないな。


 潔く諦めたアッタロスは引き返して兵士たちと合流した。

 偵察隊は次に、本命の黄金果実があると思われる丘を目指した。



 その偵察隊をこっそり離れた若い兵士が居た。先程、ヘスペリデスに興奮していた兵士だった。


「へへ……こんな危険な冒険に出てるんだ。少しは役得がないとやってられないぜ」


 九人が相手だと危険だろうが、たった一人の所を狙えば何とか出来る。ニンフとは言え、所詮は女だろう。そう高をくくって、兵士は屋敷の傍に隠れた。

 屋敷のドアが勢いよく開かれる。

 アステロペーが飛び出してきた。


「うっとくみーせ!」

「何て言ってるんだ?」


 襲おうにもアステロペーが早すぎて見失ってしまい、兵士はまた隠れた。

 そして、遂に兵士の好みに合う、一人で居るヘスペリデスが現れた。

 動物の世話をしに行くアイリカーだった。


「おお……デカい女、好みじゃないか! 何としてもモノにしてやりたいッ」


 兵士はアイリカーの後をつけた。

 誰にも気付かれない所で襲うつもりで。

 それがどんな結果になるかも考えもせずに。



 

 丘が見える位置に到着したアッタロス偵察隊は目の前の光景に言葉を失っていた。

 丘の天辺に生える黄金果実を実らせている木、美しい歌声で歌うヘスペリデス。それらを守るように丘の麓に鎮座する巨大な蛇。吟遊詩人の詩に聞く冒険譚の一幕だった。

 若い兵士が見惚れる中、アッタロスだけはとてつもない危機感を覚えていた。


 ――ニンフがもう一人居たのか。それにあの蛇だ。あんな巨大なもの見たことも聞いたこと

 もない。ニンフを襲わない所を見るに、ニンフとあの蛇は共生している。


 黄金果実の番人が居ることは想定していた。けれど、ニンフと共生している詳細不明の存在となると危険度は一気に跳ね上がる。

 どんな冒険でも同じ。未知を相手にしては確実に生き残れない。

 この時点で果実の回収は困難。何をするにしても、情報収集が最優先事項となった。

 一度拠点に帰還し、情報収集のため島に潜伏する計画を練ろうとアッタロスは決めた。ニンフとの接触は諦めていたが、そうも言っていられない。あの巨大蛇の情報を得るためならニンフを確保する必要もある。

 ひとまず兵士を正気に戻そうと、アッタロスは振り返った。

 そこで、一人の兵士が居ないことに気付く。


「ッ!? おい、一人どこに行った?」

「え? ……ぁ。本当だ、どこに行った」

「わかりません……」


 状況が切迫していると判断したアッタロスが撤退指示を出そうとした瞬間、


――!!! 


 森に女の悲鳴が響いた。

 丘に居たヘスペリデスが悲鳴を聞いて何かを叫ぶ。

 アッタロスたちには理解できない言語だったが、巨大蛇はそれを理解できたらしく、背にヘスペリデスを乗せてすぐに動き出した。

 蛇が向かった方向はヘスペリデスの屋敷方面。

 アッタロスは少し考えて、怯えている兵士たちに指示を出す。


「お前らは拠点に帰還し、拠点を放棄して脱出準備をするように隊長に報告。俺は奴を追い、少しでも情報を得る。居なくなった奴は死んでいると思え。ここはもう死地だ、気を抜くな!」

「は、はい!」


 兵士たちは浜の拠点へ、アッタロスは巨大蛇――ラドンを追ってヘスペリデスの屋敷に向かった。



                ―――――



 ラドンの機能には、森に響いた悲鳴がこう聞こえていた。


『侵入者!!』


 それはアイリカーの声であった。

 助けを求めるのではなく、姉妹とラドンに危機を伝える叫び。

 臆病で口下手なアイリカーの懸命な声。

 ラドンが声のした座標に到達したとき。

 アイリカーは剣を腹に刺されていながらも若い兵士の腕を離すまいと掴んでいた。

 突如現れたラドンの姿を見た兵士は腰を抜かし、恐怖一色に顔を染めた。

 ラドンが尻尾を器用に操作し、兵士を気絶させる。

 背に乗っていたエリュテイアが叫ぶ。


「アイリカー⁉」

 

 エリュテイアがラドンの背を飛び降りて、倒れているアイリカーに駆け寄る。

 エリュテイアがアイリカーを抱え上げる。

 剣が深々と腹に刺さり大量の血が流れ出している。色白な顔はさらに青ざめ、脂汗が浮ぶ。

 血で重くなった長い髪が地面に広がった。

 アイリカーが薄く笑みを浮かべる。


「ち、血で……汚れるよ」

「アイリカー、しっかりして! 今ヒュギエイアを呼ぶから……」

 

 焦るエリュテイアの手を、血に塗れたアイリカーの手が握る。


「と、突然、その男に襲われた……。皆に報せなきゃって。他の姉妹たちは?」

「それは……」

「問題ない。どこかで悲鳴や争う音は聞こえない」

「ぁ、ありがとう、ラドン……。きっと他にも居る。ごほっごほっ……ラドン、皆を守って……」

「ああ、それが仕事だ」

「ぁぁ……ラドン、ホントに……蛇が好きなの……」

「知っている。お前の静かな歌が、よい眠りをくれた」

「……う、嬉しい……へへ……」


 アイリカーの手から力が抜ける。

 涙を堪えるエリュテイアは嗚咽を飲み込む。


「さ、最期も、ぼっちじゃなかった……」

「……ええ、ここに居るわ」

「最初でよかった……。こ、こんな悲しい気持ち。ぼ、ぼっちじゃ耐えられない……。み、皆の、こと、ラドンも、ごほっごほっ……だ、大好きだから……」


 アイリカーが何かに手を伸ばそうとする。


「し、幸せ…………。……もっと、一緒に居たいよぉ…………」


 この瞬間、アイリカーの運命が絶えた。

 エリュテイアが堪えていた嗚咽を吐き出した。

 ラドンはキマイラの死を直感したときには感じなかった、身体の奥が締め付けられる痛み《エラー》を覚えた。



 

 気配を殺していたアッタロスは一部始終を見ていた。

 相変わらずヘスペリデスの言語は理解できない。しかし、ラドンがそれを理解していると確証を持てた。


 ――言語を理解する知性を持つ蛇、か。とんでもない脅威だ。


 もし、ラドンが人間の言葉さえ理解できるなら喋ることさえ情報を相手に渡してしまう危険な行為になる。どんなに精緻な作戦でも、筒抜けになってしまえば意味がない。

 この情報は絶対に必要だ、とアッタロスは判断した。

 そして、残酷な決断を下す。

 

 ――可能ならば助けてやりたかったが……。


 投げナイフを取り出し、狙いを定めて投擲する。真っ直ぐ飛んだナイフは気絶していた若い兵士の喉に刺さった。

 ラドンが言語を解する以上、捕虜となって情報が漏れるのを防がねばならない。仮に今の一撃で殺せなくても、喉を潰したため喋ることはできないだろう。

 異変に気付いたラドンが、ナイフが投擲された場所――アッタロスが隠れていた地点を特定する。

 しかし、既にアッタロスは逃走していて少し離れた場所に居る。後を追おうとしたラドンだが、アイリカーの言葉を思い出してエリュテイアを一人残していくのを躊躇った。

 その間に、もうアッタロスは姿を消していた。

 想い合う気持ち、関係。

 それに己も含まれている。

 繋がりは素晴らしいものだ。女神もヘスペリデスもそう言った。

 けれど。

 ラドンは己が弱くなったと感じている。


 ――これが繋がりなのか? これは弱みではないか!


 何かへの怒りを乗せて、ラドンが咆哮する。

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