第37話
茶会を終えて、わたくし達はゲートで帰るハンス様を見送った。国同士の移動は、一旦中継地点になる場所がありそこに転移する。今回は平和条約を結んだ後の交流だったのですんなり移動の許可が下りたが、場合によっては入国を拒否されて転移出来ない事もある。
中継地点は警備の為に常に録画されているので王妃様やエリザベスと一緒に中継地点まで行ってハンス様を見送った。
穏やかに別れを告げて、今後も平和に過ごしていく事を確認する。わたくしもすぐに家を帰ろうと思ったんだけどエリザベスが少し2人で話したいと言うから時間を取った。エリザベスは、2人きりになった途端に笑いだしてしまう。
「シャーリー、最高だったわ! 見た? あの間抜けな顔!」
「もう! さっきから笑い過ぎよ!」
「この部屋は魔法が効かないから、録画される心配はないわ!」
「相変わらず抜かりがないわね。それより、これで大丈夫なのよね? 本当に、平和になる?」
「しばらくはね。元々小競り合いが絶えなかったんだから、このまま仲良くしましょうねとはいかないわ。実際、シャーリーを狙ってたじゃない。でも見事に撃退したわね。さすがよ」
「フレッドがわたくしを大事にしてるのは有名なのにわたくしを狙ったりする?」
「だからよ。シャーリーはフレッド様の最大の弱点。シャーリーがハンス王子に靡けば良いと思ったんじゃないの? だからわざわざ、フレッド様が戻る前に見目麗しいと評判のハンス王子が訪れたのよ。辺境伯と今すぐ話したいなんて無茶を言ってね。そうすれば、フレッド様が不在の今はシャーリーが出てくるしかない」
「……だからあんなに馴れ馴れしかったのね。正直、距離が近過ぎて不快だったわ。ハンス様が人気がある理由が全く分からないわ」
「シャーリーはフレッド様が好きなんだから邪魔しないで欲しいわよね。王家でも今後の対策を立てるわ。フレッド様にもご報告しておく。ごめんなさい、嫌な思いをさせて」
「気にしないで。これがわたくしの仕事だから。それより、ハンス王子の情報はある? 次にお会いする事があるなら、出来ればフレッドと一緒の時が良いわ。対策を立てておかないと、フレッドが不機嫌になってしまうもの」
「ハンス王子の情報はあまりないの。わたくしも式典でたまにお見かけするくらいだったわ。元々、国同士の仲が良くなかったから情報が少なくて」
「お美しい容姿だし、きっと女性にモテるわよね」
「そうね。シャーリーが自分に靡くと信じきっていたもの。わたくしも以前口説かれたわ。聞こえないフリをして躱したけど。自分がモテると信じきってる所はあるわね」
エリザベスを口説くって、国を潰しにきてる。かなり悪意があるわよね。エリザベスと王太子殿下は相思相愛なんだから、割り込む隙間なんてないのに。
ハンス様は見た目だけは美しかったけど、それだけのように感じた。同じ美しい容姿の方なら、内面も伴う王太子殿下やクリストファー様の方が余程素敵よ。会話も、最低限は押さえてたけど薄っぺらかった。
けど、わたくしがそう思うのも作戦なのかも。それが演技なのか本当なのか、分からないところが不気味だったわ。
「正直、ハンス様みたいな男性は苦手だわ。ケイリー様を思い出しちゃうもの」
「確かに似てるわね……。ケイリー様は塀の中よ」
「そうらしいわね。無事離婚が成立したって聞いたわ。まぁ、もうわたくしには関係ないけれど」
姉はようやく離婚が成立したらしい。評判は最悪だが、最近は真面目にやったいるようだ。エリザベスとクリストファー様にも謝罪したと聞いた。
実家は火の車みたいだけど、知らない。フレッドがあれだけお金を渡したんだから、足りないなんておかしいのに。
「そうね。もうシャーリーとは無関係な方達だもの。それより、今日は本当にお疲れ様。シャーリーのおかげでうまくいったわ」
「わたくしは茶会をしていただけよ?」
「だけってよく言うわ。ハンス様はとても驚いていたわよ」
「なにか失礼な事をしたかしら?」
「逆よ! 完璧だった。ハンス様は辺境伯夫人とはこんなに賢いものなのかって呟いてたわよ」
「嘘?!」
「本当。ハンス様に付けていた密偵からの報告だし間違いないわ。あちらはシャーリーを舐めていたの。言葉通り平和を続けるつもりはない。シャーリーを足がかりに辺境をじわじわと潰すつもりだったのよ」
「わたくしを足がかりって……本気でわたくしがハンス様に靡くとでも思ったのかしら」
「思ったみたいね。だから、シャーリの対応は満点よ」
「喧嘩にならず、舐められないようにする事しか考えてなかったわ」
「それで良かったのよ。特に、フレッド様を侮辱されても怒らずに、でもはっきり不快感を示したでしょう? あれは、みんな褒めていたわ」
「……ああ、あれ? 内心腹は立っていたわ。けど、フレッドの積み上げてきたものをわたくしが壊す訳にいかないもの」
「素敵な夫婦ね。明日にはフレッド様が帰って来るんでしょう?」
「明後日になるかもしれないけど、もうすぐ帰って来るわ。早く会いたいの」
「まだ色々不穏なところがあるから、面倒をかけるとは思うけど、しばらくは大丈夫だと思うからゆっくりしてね」
「ありがとう。ところで、基本的な事を聞いて申し訳ないんだけど、どうしてあちらは攻めて来たの?」
調べても調べても、確証がなかった。多分、食糧不足だとは思うんだけど……。
「どうやら、去年の不作が原因のようね」
「やっぱりそうなのね……、でも不作は1年くらいならなんとかなるわよね? わざわざ侵略しようとする方がお金もかかるのに」
「うちの国は税金の使い道を公開するくらい透明性が高いけど、他国ではそんなことないのよ。備蓄が義務付けられてもいないし、報告によるとずいぶん痩せた兵だったそうだから、余裕がないのかもね」
「なるほどね……。だからうちの兵士の被害が少ないのね」
フレッドが帰って来たらすぐに伝えないと。
国が違えば、常識も変わる。今まで領地や国内の事ばかり勉強していたけど、もう少し他国の事を勉強した方が良いわね。
帰る前に、エリザベスに頼んで少し勉強させて貰いましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます