第33話  騎士服は反則です【シャーリー視点】

「シャーリー、愛してる」


わたくしの目の前には、愛する夫が居る。いつもかっこいいフレッドだけど、今日の姿は別格だ。


「フレッド……どうして騎士服を着ているの?」


「やっぱりこの服が好きなんだね。この間仕事を手伝った報酬に1日だけ貸してもらったんだ」


「この間って、騎士団の訓練に行った時の?」


「そう、新兵の為に騎士団長と模擬戦をしたんだ。オレの剣は乱暴だから、騎士同士の戦いとは違うものを見せたかったらしい。以前から何度も頼まれてたんだけど、面倒だから断っていたんだ。けど、シャーリーがそんなに喜んでくれたなら受けて良かったよ」


「そのっ……どうして……知ってるの? わたくしが、フレッドの騎士服が好きだって……」


直視出来ないくらいかっこいいですわ。フレッドは、嬉しそうにわたくしを膝に抱いてニコニコしております。おかしいですわ。あの時はバタバタしておりましたし、バレてないと思っていたのですが……。


「どうしてもオレを引っ張り出したかった王太子妃様が騎士団長に耳打ちしたらしい」


あああ!

思いっきりエリザベスには言ってしまいましたわ!!!


油断しておりました……。まさかエリザベスから伝わってしまうなんて。


だけど、もう仕方ありません。それよりも、もっと聞きたい事がありますわ。


「フレッド、模擬戦をしたの?」


「ああ、そういえばシャーリーには言ってなかったか?」


「聞いてませんわ! 見に行きたかったのに……」


フレッドの剣術はとてもとてもかっこいいのです。ですが、強すぎて領地では手加減している姿しか見れません。騎士団長様ならお強いですし、模擬戦を頼まれるくらいですから、きっと良い勝負をなさるのでしょう。どっちが勝ったかも気になりますわ!


フレッドに傷はありませんでしたから、きっと勝ったのですわよね?!

ああでも、騎士団長様ならお強いから寸止めなさった事も考えられます。どちらにしても素晴らしい戦いだった事は間違いないでしょう。フレッドの勇姿を見たかったですわ……。


「シャーリー、そんなに模擬戦を見たかったの?」


フレッドが顔を顰めながらわたくしに聞きます。あら? なんだか機嫌が悪い気がしますわ。


「はい、とても見たかったですわ。フレッドの本気の剣は見た事がないのですもの」


そう言うと、フレッドは嬉しそうに笑みを浮かべました。かっこよすぎて、気絶しそうですわ。


「顔、真っ赤だね。そんなにこの服が良いの?」


「騎士服は、フレッドに似合い過ぎますわ。同じデザインを作る訳には参りませんけど、似た型の服を作りたいくらいです」


「……なるほど。その手があったか。すぐに手配しよう」


「え、ええっ! 本当ですか?!」


嬉しい! 嬉しいけど、わたくしの反応を面白がってずっと着ているフレッドの姿が目に浮かびます。


「やっぱりやめましょう! こんな素敵な姿のフレッドをいつでも見れるなんて心臓に悪いです!」


「シャーリーは、本当にオレが好きなんだな」


「当然ですわ! 今更なんですの!」


「さっき、ちょっとだけ嫉妬したんだ。シャーリーは騎士団長が好みのようだから」


「もう! わたくしはフレッドしか愛しておりませんわ!」


「分かってる。けど、シャーリーに言わなかったのは、シャーリーは騎士をうっとりを見ている事が多いと聞いていたから、騎士達と関わらせたくなかったからなんだ」


だからさっき、不機嫌な表情をなさったのですね。わたくしはフレッド一筋ですのに!


「わたくし、確かに騎士様の逞しいお姿には憧れますけど、よそ見するような事しませんわ! フレッドを愛しておりますもの! それに、フレッドより逞しくて素敵な騎士様などいらっしゃいませんわ!」


そう言ってフレッドの腕に頬を擦り寄せると、太くて逞しい腕に優しく抱きしめられました。


「そうだったね。シャーリーは、そうだった。ねぇ、模擬戦を見たかったかい?」


「見たかったですわ! だって本気のフレッドの剣を見た事がないのですもの」


「騎士団長相手なら、本気を出すしかないからね。けど、オレは騎士みたいな綺麗な戦い方をしないよ。新人達も、勝ったオレよりも騎士団長に憧れている者ばかりだったよ。オレの戦いは、醜い。シャーリーみたいな綺麗な子が見るものじゃない」


「まぁ! 何てこと言いますの! いくらフレッドでも許しませんわ!」


「ご、ごめん。やっぱり怖いよな」


「違います! フレッドが剣の腕をひたすら磨いたのは辺境を守る為でしょう?! お義母様から聞きましたわ! フレッドは跡取りとして幼い頃から鍛錬を欠かさなかったと! フレッドが努力を重ねて得た自分の剣術を醜いと表現するなんて、絶対許しません! 拘りのお髭を抜いてしまいますわよ!」


そう言ってフレッドをお髭を触ろうとしましたが、丁寧に手入れされているお髭を抜くのは忍びなくて出来ませんでした。


でも、なんとかわたくしの怒りを分かって頂こうととしたらフレッドがわたくしの頭を優しく撫でて下さいました。


「そうだな。シャーリーの言うとおりだ。なあ、シャーリーはオレが獣のように剣を振り回していても怖くないか?」


「獣は剣を振り回したりしませんわ。剣術が使えている時点で、フレッドは獣ではなく人間です。剣を生業としておきながら、フレッドの剣術を醜いなどと言う騎士は居ないと思いますけど、もし居たらわたくしが引っ叩いてやりますわ!」


「オレの妻は頼もしいな」


「当然です。わたくしは辺境伯夫人ですもの」


「来月、もう一回模擬戦をして欲しいと頼まれたんだ。良かったら観に来るかい?」


「良いの?! 絶対行きますわ!」


「次は余裕で勝つから」


そう言って笑うフレッドは、とてもかっこよくて惚れ直してしまいました。

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