第32話

「シャーリー、おかえり」


「ただいま、フレッド」


抱きついてキスをすると、嬉しそうにフレッドが笑う。やっぱり、フレッドの事が大好きだわ。


「楽しかったみたいだな。ずいぶんスッキリした顔をしている」


「ええ! わたくしもっと堂々とする事にしたの! 最近は、自信をなくしていてごめんなさい。夜会で綺麗な方がいつもフレッドに話しかけるし、フレッドがいない隙に先にお見合いしたのは自分だとか、あんな問題ある家の出身でフレッドが可哀想とか、男爵に攫われたから傷物なんじゃないかとか言われるし、フレッドにはもっと相応しい方が居るんじゃないかって思ってしまっていたの。でも、やっぱりわたくしフレッドが大好きなの。どうしても離れたくないわ。だから、嫌な気持ちにもちゃんと向き合おうと思って。今まで黙っていてごめんなさい。わたくしもう何を言われても、負けないわ。だから、その、これからちょっとだけ弱音を吐いても良いかしら?」


あら? フレッドが無言だわ。なんだかとても怒ってるみたいね。やっぱりこんな気持ち聞いてて気分が良くないわよね……。


「シャーリー、それを言ったのは誰だ」


「え……? それは言えないわ」


さすがに名指しはまずい。確かほとんどの方がフレッドとお見合いをした令嬢だった筈だし、お家の付き合いもあるだろう。


フレッドとの婚約を断れたって事は、それなりに高位な貴族。侯爵令嬢も居たし、辺境伯夫人と対立! なんて事になったら目も当てられない。


フレッドは、フッと笑ってわたくしを抱きしめた。ちょ……その笑顔……反則なんですけど……。


「そうか、シャーリーは優しいな。分かった、こちらで調べる」


「え?! フレッド? 調べてどうするのよ」


「少しお話し合いをするだけだ」


さっきの笑顔とは違い、真っ黒な笑みを浮かべているフレッド。うぅ、そんな表情も素敵だわ……。


「フレッドは、わたくしが不甲斐ないから怒ってるんじゃないの? 泥棒猫に怯むなんて、辺境伯夫人としては失格じゃなくて?」


「シャーリーは何も悪くない。今まで見向きもしなかった癖に今頃すり寄って来ても相手にする訳ないだろ。オレはシャーリーに、最高級のドレスや宝石をプレゼントしているからな。どうせ金目当てだろ」


「なんでよ! フレッドはかっこいいわよ! 何人もの方がフレッドを褒め称えたのよ! けど、わたくしの方がフレッドの事を分かってる! わたくしの方がフレッドの事を愛してるわっ!」


今から1時間、フレッドへの愛を語る事だって出来る。あの泥棒猫達は、せいぜい30分でしょう。負けるものですか!


「シャーリー……なんて可愛いんだ……!」


「わたくし、怖いの。不安なの。フレッドを好きな令嬢はきっといっぱい居るわ。わたくしより美しくて、大人な女性ばかりだし……」


「シャーリー以外の女性に興味はない。オレが愛するのはシャーリーだけだ」


「嬉しい! 愛してるわ! フレッド!」


「オレもシャーリーを愛してるよ。今まで我慢していたけど今後は夜会では一瞬たりとも離れない。そうすれば変な女性は寄ってこないだろう? それに……シャーリーを狙う男も居るらしいしな」


「ふ、フレッド……?」


なんだか、フレッドの目が据わってるわ。わたくし、なにか間違えたかしら……?

今までだって、夜会でほとんど離れてないわよね?! さらに離れないってどういう事よ。


「お互いにもっと仲のいいところをみせつければ、余計な虫は寄って来ないと思わないか……?」


「フレッド、お顔が近いわ。どうすればいいの?」


「もっと夜会で仲の良いところを見せつければ良いんだよ。具体的には、ずっと腕を組むか、手を繋いでいよう。どうかな?」


「え……ずっと?」


「そう、ずっと。嫌かな?」


目の前にフレッドのお顔があって、ドキドキして何も考えられなくなってきたわ。だけど、夜会でずっとフレッドと手を繋げるのは嬉しいわ。


「い、嫌じゃないわ!」


「そう、良かった。ところでシャーリー……オレはシャーリーの事を愛しているのに、ちゃんと契約もしたのに、他の女性を好きになると思っていたの……?」


フレッドが、捕食者の目をしている。


「お、思わない! わたくし、フレッドを信じてるわ」


「でも、オレに近寄る女性に嫉妬したんだよね?」


色気!! 漂う色気で気を失いそうよ!


「……ご、ごめんなさい……フレッドを愛してるけど……嫉妬したし不安だったわ」


「嫉妬は良いんだ。けど、不安にさせたのはオレがいけなかったね。オレがどれだけシャーリーを愛してるか、ちゃんと教えてあげるね」


そのままフレッドにキスをされて、気がついたらベットに居て、何も考えられなくなって気を失って……いつの間にか夜が明けていた。


それからは、フレッドが夜会に行くのを嫌がる事はなくなった。わたくしが嫉妬すると、その日の夜は気を失うまで愛してくれる。


そんな事を繰り返していると、辺境伯夫妻はとても仲がいいと評判になり、フレッドに色目を使う女性はいなくなった。フレッドがわたくしを離さないから、隙をみて近寄ろうとする女性はわたくしが笑って対応出来るようになった。


いつの間にかわたくしに嫌味を言う令嬢は居なくなっていた。


「シャーリー、今日も綺麗だよ」


「フレッドもかっこいいわ!」


わたくしは今日も、素敵な旦那様と仲良く過ごしているわ。

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