第28話

「シャーリー、今日も綺麗だ。やはり夜会に行くのはやめないか?」


フレッドは夜会のたびに行くのをやめようと言うのよね。ドレスアップしたわたくしを誰にも見せたくないと言うの。エリザベスの言う通り、フレッドは独占欲が強いのかしら?


「今日はエリザベスの誕生祝いだから、先生もいらっしゃるし行きたいわ。それに、フレッドはわたくしから離れないんだから、変な人なんて来ないでしょ?」


なんだかんだで、結局夜会には行く。だけどフレッドはわたくしから離れない。ご挨拶も全て夫婦で行うから辺境伯夫妻はとても仲が良いと評判なの。わたくしも、フレッドをずっと一緒にいられるから嬉しいわ。


「シャーリーから離れる訳ないだろう。変な男が寄ってくるに決まってる」


「わたくし、夜会で男性に話しかけられた事なんてないわよ?」


「シャーリーが美しすぎて話しかけられないだけだと思うぞ」


「そんな事ないわ。それに、最近はフレッドもよくお嬢様方に話しかけられてるじゃない!」


最近は若い令嬢から声をかけられる事が増えた。皆さんフレッドをうっとりと見つめてらっしゃるの。……フレッドには内緒だけど、嫉妬してしまうわ。


「今までこんな事はなかったのだが、なぜだろうな?」


「フレッドはかっこいいんだから当然でしょう」


思わず顔を背けてしまったら、フレッドからキスをされた。


「シャーリー、もしかして嫉妬してくれてるのか?」


「……そうよ。だってフレッドはわたくしの夫なのに、なんであんなにうっとり見つめるのって思ってしまうの」


「可愛いな、オレはシャーリー 一筋だぞ?」


「わたくしだってフレッド一筋よ! フレッドがお見合い何十回もしたなんて信じられないわ。こんなに素敵な人なのに」


「だがおかげでシャーリーと会えた」


「そうね、だから他の令嬢に目移りしないでね」


もう一度キスをする。


「当然だ。シャーリーも他の男を見ないでくれ。理想の男は騎士団長なんだろう? 騎士が好きなのか?」


「え?! なにそれ?! わたくしの理想の男性はフレッドよ?」


「だが、クリストファーからそう聞いたぞ?」


「え……わたくしクリストファー様に理想の男性なんてお伝えしてないわ……あ!」


思い出した。フレッドを紹介してくれるとエリザベスが言った日、理想の男性って騎士団長様みたいなって言ったわ!


「フレッド! 違うの!」


「何が違うんだ?」


フレッドってば、ちょっとむくれてる?


「あの時はフレッドに出会ってなかったから、騎士団長様のお名前を出したけど、そもそも騎士団長様には素敵な奥様がいらっしゃるからちょっと憧れたくらいだし、逞しい男性の理想を言っただけなの! フレッドに出逢って一目惚れするまで、わたくしどなたとも恋はしてないわ!」


こんな事で嫌われたくないわ!

必死で説明していたら、フレッドは嬉しそうに笑いだした。


「シャーリー、そんなに泣きそうにならなくても分かったから。すまん、ちょっと嫉妬しただけだ」


なによ、意地悪そうに笑ってらっしゃるわ。そんなフレッドも素敵だと思うんだから、わたくしもだいぶフレッドが好きよね。


「……わたくし、フレッドしか愛していないわ。最高の男性も、フレッドだけよ」


騎士服は、好きよ。フレッドが着ていた時はかっこよすぎて気絶しそうだったわ。……でも、今は内緒。


「可愛い……オレもシャーリーを愛してる……」


フレッドに何度もキスをされて、慌ててお化粧を直して夜会に出かける事になったけど、とっても満たされた気持ちだわ。


「シャーリー、お久しぶりね」


「サリバン先生! お久しぶりですわ」


「幸せそうで良かったわ。フレッド様、シャーリーをよろしくお願いしますね」


「シャーリーからいつもお話は伺っております。サリバン様、シャーリーは私が幸せにしますのでご安心下さい」


「あら、2人で幸せになるのよ?」


「ふふっ、わたくしの教えを覚えてくれているのね」


「もちろんですわ!」


「シャーリーは、とても頑張り屋です。私もシャーリーを見ていると、日々頑張らねばと気が引き締まる思いです」


そんな事思ってくれていたのね。嬉しいわ。


「そうね、シャーリーは昔から熱心に学んでくれる生徒だったわ」


わたくしは姉のオマケだったのに、生徒と言って下さるなんて嬉しいですわ。


「よろしければ、シャーリーの話を聞かせて下さい。いつも先生の話はしてくれますが、シャーリーは自分の事は教えてくれないので」


フレッドがそんな事言うなんて。わたくしの過去を知られるみたいで恥ずかしいわ。でも、わたくしもフレッドの昔話をフレッドのご家族や、親戚の方に聞いたのよね。


皆様お優しくて、フレッドの失敗談まで事細かに教えて頂いた。フレッドは隣でプルプル震えながら聞いていたわ。恥ずかしかったけど、わたくしが嬉しそうに聞くから止められなかったって後で聞いたから、わたくしもサリバン先生がお話しするのを止める訳にはいかないわね。


「シャーリーが良ければ構いませんわ」


「フレッドが知りたいならお話し下さいませ。ちょっと恥ずかしいですが、わたくしもフレッドの昔話をずいぶん聞いてしまいましたもの」


「そう、ならちょっとお話ししようかしら。とは言っても、わたくしは半年程しかシャーリーを教えられなかったけれど」


その半年で、わたくしは変わったわ。

いつも心がささくれていて、誰もわたくしの事なんて興味がないと思っていた。だって家族はああだったし、使用人も父や母に冷遇されているわたくしに冷たかった。


だけど先生は、来られたその日に仰ったの。


「この家にはお嬢様がおふたりおられますわよね。依頼はアイリーン様だけですが、共に学ぶ者がいると伸びますから、妹のシャーリー様も共に授業を受けませんか? もちろん、料金はアイリーン様の分だけで結構です。おそらくシャーリー様だけでなく、アイリーン様の為にもなるかと思いますわ」


お金はかからず、お姉様の為と言われたら、うちの両親が拒否する訳ないからあっさり受け入れられた。


先生は、誰も気にしないわたくしのことも気にして下さったわ。


そしてあの言葉を仰ったの。


「これからマナーや魔法、歴史などの家庭教師をいたしますサリバンと申します。知識は大切ですわ。モノやお金は失うこともあるけれど、自らが学んだ知識は一生失いません。ですから、真摯に学んで下されば嬉しいですわ。アイリーン様、シャーリー様、今後ともよろしくお願いしますね」

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