第22話

「さて、ひとまず状況を把握しましょう」


えっと、窓の景色は空しか見えないわね。それから、出入り口は鉄格子、んー……せめて景色を見たいわ。


「おお、起きましたか」


扉の開く音がして、先程のおじさんが現れた。


騒ぎすぎたかしら? 気持ちがどんどん焦っていく。

……いや、冷静になれ。せめてこの人の名前を聞き出さないと。


ゆっくり話を聞きましょう。最悪繭に閉じこもればいいわ。出来るだけ油断させる為に、弱々しいフリをして話をしましょう。


「あの……、ここはどこですか? 貴方はどなた?」


「ふふっ、貴方はもう私の妻ですよ。そんな他人行儀な事を仰らないで下さいな」


誰が貴方なんかの妻になるもんですか!

わたくしは、フレッドの妻よ。


一瞬、フレッドの名を出そうと思ったが、万が一このおじさんが、フレッドより地位の高い貴族なら面倒な事になる。


フレッドは、すぐ来てくれる筈。


それなら、わたくしが出来るのは情報を集める事だわ。この人はすぐにわたくしに近寄ったりしない。獲物が弱るのを待っている感じがするもの。隙を見てエリザベスに情報を伝えましょう。


刺激しないように、相手の言葉を否定しないように話せば良いわ。姉のご機嫌を取るのと一緒よ。


「わたくし、貴方と結婚したのですか?」


「そうです、結納金も払ったでしょう? 貴方はもう私のモノですよ」


「……そんな……」


ひとまず、泣き真似をしてみる。本気で泣きたい気分だけど、フレッドが来るなら耐えられる。まずは情報収集よ。


鉄格子は、大きな鍵が3つもついてる。


近寄ろうとしても鍵を開けないといけないんだから、この状態ならすぐ手を出されることもないわ。


こんなとこに閉じ込めるくらいだから、弱々しい女なら舐めてペラペラ話してくれるんじゃないかしら?


「……ああ、良いですね。その弱々しい泣き方。いつも姉に馬鹿にされても受け入れる従順さ、見た目が好みでないと思っていましたが、実際は美しかった。今後は、貴方は僕の言う事を聞いて下さいね。妻なのですから。しばらくはここに閉じ込めて、僕に従順になったら出してあげますよ」


なるほどね、もともと目をつけられていたんだ。


「……まだ、覚悟が出来ませんの……もう少しだけ、お時間を下さいませんか?」


「構いませんよ。じっくり覚悟を決めて下さい」


ねっとりした目で見られた。うわぁ……鳥肌がすごい。ダメよ、こういうタイプは自分に嫌悪を向けられると気が付いてしまう。


顔を伏せて、泣き真似をすると満足そうな声で笑っている。機嫌は良いわね。どうにか名前だけは聞き出さないと。


「……あの……せめて夫になる方のお名前を教えて頂けませんか……? 夜会でわたくしを見初めて下さったのなら、貴族の方なのですか?」


「そうですよ。私は貴族です。男爵ですよ。貴方のお父様より爵位は低いですが、お金はありますからねぇ。爵位より、お金ですよ。くだらないプライドで事業もせずに、金がないと喘いでいる貴族の娘を買うのが趣味なんです。ボリス・ル・マリエールと申します」


「シャーリー・デル・グラール、17歳ですわ。ここはマリエール男爵のお屋敷なのですか?」


「17! 良いですね……。ここは、王都ではありますが、僕の隠れ家ですよ。逃げようとしても無駄ですよ。鎖がついているでしょう? それを外せるのは屈強な男だけだ」


「そんな……気がつきませんでしたわ……」


気がついてたけどね。名前はゲットしたわ。すぐ知らせなきゃ。


「……こんな鎖を付けられるなんて……酷い、酷いですわ……」


「ふふっ、良い声で泣きますねぇ。大丈夫、僕に従順になればすぐ外してあげますよ。しばらくは、ひとりで覚悟を決めて下さい」


「……酷い……酷いですわ……」


わたくしの泣き声に満足したのか、マリエール男爵は嬉しそうに去って行ったわ。


さ、演技タイムは終了。防音魔法で、声が外に漏れないようにして、エリザベスに通信するわよ。

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