第16話

「まったく、急にプロポーズなんて野蛮だな」


「本当ね。シャーリーにお似合いだわ。持参金もないから、田舎で冷遇されても助けを求めたりしてはダメよ。貴方はもう結婚したのだから」


「わかってますわ。わたくしはもうグラール家の者ではありませんから」


「荷物は全部置いていきなさい。身一つで良いと先方も仰ったのだから」


「……かしこまりました」


帰りの馬車は、ひたすらフレッドの悪口だったわ。途中から寝たふりしたらホントに寝ちゃったから何言ってたか分からないけど、どうでもいいわ。


フレッドは、明後日迎えに来てくれる事になった。式は姉の式が済んでから王都で簡易的なものをして、領地で大々的に行う事になった。


両親は、王都の式だけ参加すると言い出したわ。


フレッドも、クリストファー様もエリザベスも驚いていたけど、わたくしは驚かなかった。


だって移動にお金がかかるじゃない?


辺境は馬車なら半月かかる。当然旅費も膨大にかかるもの。わたくしはもう婚姻したのだから、王都で花嫁姿を見れれば充分とか言ってたけど、あれは旅費をケチっただけね。だってうちの両親、領地の運営も全部代官任せで一切領地に帰らないもの。


王都が大好きで、綺麗なものしか見ないのよね。


まあいいわ。この地獄も明後日まで。


荷物は全部置いて行けと言われたけど、記録玉はわたくしが買ったもので常に隠し持っているし、フレッドが明日にはドレスを届けると言ってくれたから全部置いて行っても困らないわ。


あんな素敵な方とあっさり結婚出来るなんて嬉しいわ。結婚の契約は、すぐ王城に届けられた。証人がエリザベスだから、王太子殿下の権限で即日承認されたわ。


フレッドのご両親に気に入って頂けるか心配だったんだけど、フレッドが通信魔法で連絡したら、すぐ結婚しろ。逃すなって言われたらしく、ご両親にも歓迎して頂けてるみたい。良かったわ!


貴族の結婚は、たまにこんな風に急に行われる事もあるし、王城で承認されてしまえば余程でなければ離婚も出来ない。


余程ってのは、結婚時に行う契約に違反するとか、暴力を振るうとか明らかなる過失が証明された時だけ。


結婚の契約内容を話し合ったんだけど、フレッドは愛人は要らないって言うの。そんなもの不要だって断言していて、とってもかっこよかったわ。


わたくしが辺境に住む事も条件に入れて頂いた。遠くだからわたくしと両親の連絡はエリザベスのお家を介して行うとも取り決めて頂いたわ。両親は、公爵家と繋がりができると喜んでるけど、この条件、わたくしに直接無茶を言ってこないようにエリザベス達がさりげなく入れてくれたのよね。


他にも色々取り決めたけど、ほとんどわたくしの為の条文だったわ。わたくしの義務は、フレッドと暮らして、浮気をしない事。それだけ。


浮気なんてする訳ないわ! 理想の旦那様が居るもの。


これで、家からは離れられる。ホントに嬉しいわ。

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