第3話

「そうなんです! いつもお姉様は優しいんですのよ。さ、ファーストダンスが始まりますわよ。いってらっしゃいませ」


先生の教え、その5。わかりやすい悪口は言うな。


お姉様はケイリー様にぞっこんで、夜会で仲良くなって即日婚約した。だけど、ケイリー様の評判は最悪だ。


本音を言えば、姉の本性がバレてケイリー様から婚約破棄されないかなーって思ってる。


「そうだね。アイリーン、ダンスに行こうか」


「ええ、よろしくねケイリー。シャーリー! 余計な事言わないで大人しくしててちょうだい!」


「余計な事ってなぁに? さ、いってらっしゃいませ」


お姉様は、わたくしを睨みつけながら去って行った。お姉様、ピンチの時ほど笑顔になりましょうよ。さて、今のうちに動きましょう。


先生の教え、その6。敵に気付かれないように、味方を増やせ。


「シャーリー! 今日は素敵ね!」


「エリザベス! ありがとう。ようやくわたくしのドレスを着れたわ」


親友のエリザベスは、公爵令嬢だ。


「ああ、それやっぱりシャーリーが選んだやつなのね。シャーリーってばセンスは良いのにいつも変なドレス着せられて可哀想だったもの」


「いつも見苦しくてごめんなさい……」


「そんな顔しないで! さ、みんなと過ごしましょう。その格好なら遠慮する事もないでしょ」


「ええ! ありがとう」


今までは、エリザベスに夜会で話しかけないように頼んでいた。


夜会ではわたくしはいつも壁の花。それを見てお姉様がわたくしを笑うのが定番だ。


エリザベスと話してるところを見られて、お姉様がエリザベスに絡んできたら困るもの。


エリザベスは先生の課外授業で仲良くなった。お姉様はサボったから、わたくしとエリザベスが仲がいい事は知らない。2人で通信魔法でおしゃべりするくらい仲良しなのよ。姉はまだ通信魔法使えないし、わたくしが魔法をどんどんできるようになっているのを知って、癇癪起こされたりしたら面倒だから黙っている。


本当はこのままずっとエリザベスの事を秘密にしておきたかった。


だけど、そうも言っていられなくなったのよね。とある事がキッカケで家族の仕打ちに耐えられなくなって、エリザベスに今まで黙っていたけど……と言って姉の事を相談したら、ケイリー様のことを教えてもらえた。上級貴族には有名らしいんだけど、あまり広がってはいないケイリー様の噂、それは……。


ケイリー様には複数の愛人がいるそうだ。


実は愛人の事は姉も知っている。愛人がいても良いと言っていたわ。愛人が1人居るのは事情があるだけで、愛してるのはわたくしだけだからって。


だけど、5人も愛人がいたら事情なんてないわよね。単なる女好きよ。


結婚するときに愛人を認めるか契約するから、愛人を認めてしまえば我が家で養うしかない。人数まで決められないのよね。認めるか、認めないか。それだけ。認めたら愛人の予算も計上されて、愛人を養わないと処罰される。血を残す為に決めた契約だからって理由でね。


わたくしは、結婚前から愛人が居るってどうかと思うんだけど、それでも良いって姉も両親も言うの。惚れた弱み?


貴族にはよくある事だし、わざわざ自分から教えてくれたケイリー様は誠実だからって。……どこが誠実なのよ。5人よ、5人。


必死で両親にも訴えたが、姉の邪魔をする見苦しい妹と思われて終わったわ。愛人が5人なんてありえないって。エリザベスの名前を出しても、嘘つきで終了。調べようともしないのよ! ふざけないでよ! 姉の結婚なんてどうでもいいし、邪魔なんてするもんですか!

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