第22話 雨にも負けず
砂埃で曇った窓ガラスを洗うかのように叩きつける大きめの雨粒。
部屋に流れる音楽に集中していたので、雨の音に気づいたのはずいぶん経ってからだった。
いやな音がしたのだ。
ぴくりとその音を聴きつけて、体が自然に反応してしまう。
もっと音デカクしときゃよかった・・・
顔をしかめて一応窓の外を確認する。
「・・・やっぱり・・・」
遠くに見えた白い光。
とりあえず、カーテン閉めようかな・・・
今日に限って、幼馴染とは別行動。
大抵誰かいるのになんてタイミング悪いんだ。
そういえば、今朝の占い最下位だった・・
気を紛らわすために、携帯プレイヤーをカバンから引っ張りだして装着・・・と思ったら、携帯が光った。
青色の綺麗な光がカバンの中を照らす。
表示された名前は京だった。
「はいはー・・・」
イヤホンを首に引っかけたまま、京に話しかけると同時に、窓が勢いよく開く。
「多恵ー」
雨と一緒に柊介が顔を出した。
電話の向こうから京が訊いてくる。
「誰かきたの?」
無遠慮に窓から入ってきた侵入者を眼で追いつつひとまず京との会話を続けることにする。
「柊が来たー、しかもびしょ濡れで」
この間から置きっぱなしになっていたスポーツタオルを発見して、ガシガシ髪を拭く。
「1人じゃないのね?なら安心」
明らかに安堵した口調で京が言う。
いつも心配をかけるのはそっちのくせに。
といつもの憎まれ口をききそうになって慌てて飲み込む。
こうゆうくすぐったいのもたまには悪くない。
「心配無用だから」
「はいはい、あ、何時に帰る?」
京からの質問を、そのまま柊介に伝える。
こらこら、人のお茶勝手に飲まない。
「何時に帰る?」
「んー18時半?」
「後1時間はいるみたい」
「じゃあ、もーちょっとしたら、抜けてそっち行くわ。たぶん、ひなたも来るだろうし」
部室でばたばたと片付けをするひなたの様子が目に浮かぶ。
「だろーねー。ん、じゃあこっちで待ってる」
京の現在地は聞かなくても分かる。
まず間違いなく、ゲームマニアの館だ。
「うん、後でね」
二つ返事で、通話を終えたら、柊介が斜め前の椅子に腰かけたところだった。
「外コートだったの?」
「バレー部が予選前だからなー、コート譲った」
「そっか、それにしても、そんな土砂降り?」
しっとり濡れた肩を指さすと、まさかと首をすくめられた。
「雨降ってきて、ついでに水浴び」
「よくやるわ」
「京来るって?」
「うん、まだあっちの用事が終わんないみたい。あ、ほらまた電話」
同じ青い光が照らす名前は・・・
「もしもーし」
「あ、多恵、大丈夫?あとちょっとで片付くから・・・誰かいる?」
みんなして同じことを・・・
「柊介がいるよ」
「よかった。あ、京と喋ってたでしょ?」
「うん。良く分かったね」
さわさわと、心をくすぐる、ひなたの優しい声。
「天気に人一倍敏感なのあの子だもん。職員室に鍵返してすぐ行くからね!」
「焦んなくていいよー」
2回目の電話を終えて、くるりと振り向く。
当然のことながら、柊介はまだいる。
「・・・練習は?」
「ハーフコートでシューティング」
「はよ行け」
しっしと手を振ってみても、立ち上がろうとしない。
「ひなたか、京来るまでいるから」
そう言って手近にあった古い雑誌を取り上げる。
「だーいじょーぶだから」
あたしに言葉に苦笑して、視線を上げる。
「ちょっと休憩したら戻るって」
「・・・頼んでないよ」
「頼まれてねーもん」
こう言ったら梃子でも動かない。
幼馴染ってこういうとき困る。
相手の次の行動が読めてしまう。
ほら、何べんもぶち当たってきたこの展開。
昔は逆切れしたあたしがキャンキャン吠えてお兄が宥めにやってきてたけど。
・・・仕方ない・・
「・・・何聴きたい?」
古いCDの束を指さすと、あたしたちがもっと小さい頃に流行ったバラードを引っ張ってきた。
雨に濡れて、好きない人を想う歌。
何十回と聴いたフレーズ、思わず口づさんでしまう。
ほら、またこうやって、柊介の思惑通り。
嫌いな雷のことは忘れてしまうのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます