第15話 花のように星のように
「あ・・・和田」
昼休みのグラウンドを見下ろして何気なく呟いた多恵の一言に、思わず顔が赤くなる。
それを見て、にやにや笑う京。
「過剰反応ー」
「・・・かっ」
”からかわないで!”そう言いたかったのに、言葉に出来ない。
こういうとき、幼馴染は容赦ない・・
精一杯の抵抗でジロリと京を睨み返す。
と、あたしの頭の上から救いの声。
「茶化してやるなっつーの」
柊介だ。
そう言って、京の髪をくしゃっと撫でた。
「茶化してないわよ。からかってんの」
「なおさら悪いよ」
呆れ声は実だ。
二人揃って職員室に呼び出されていた。
柊介はバスケ部の顧問から。
実は情報処理の教師から。
タイミングよく帰ってきた二人のおかげであたしはようやく肩の力を抜ける。
まだ頬は赤いけど。
・・・だって、つ・・付き合うとか初めてなんだもん、しかも、相手は学園の有名人で他校にもファンクラブあったりするよーな人・・・・南ちゃんで大抵のことには慣れてるあたしも今回ばかりは・・・無理だよー・・・
四六時中些細な事でパニックになってばっかり。
幼馴染以外に”好き”という感情を抱いたことのないあたし。
右も左もわかりません。
恋愛って・・・ナニ?
眉根を寄せて考え込んだら、多恵が小さく呟いた。
「・・・だって悔しいんだもん」
まるで小さい子みたいな、不貞腐れた表情。
あたしたちしか知らない、武装前の、寂しがりやの多恵。
・・・くすぐったくて、可愛い・・
ゆったら本人めちゃくちゃ怒るから内緒だけど。
多恵を真正面から”可愛い”と言って怒られないのは颯太兄と、南ちゃんと、のん兄と、エリカ姉の今のところ4人だけ。
多恵と京は”根本”がものすごく似ている。
感じ方も、躱し方も。
だから、多恵の気持ちに一番連鎖反応を起こすのが京なのだ。
「嫁に行くわけでもあるましに」
肩を竦めて多恵の頭をぽんぽん叩いた柊介。
こういう時の対応は、柊介が一番うまい。
でも、それは飛躍しすぎ・・・?
「んで、京も連動しない」
続けた実が、京の手からゲーム機を取り上げる。
空になった手に、豆乳カフェオレを渡す。
「・・・・」
無言のままでストローを突き刺す京。
昨夜からあんまり食欲無いみたい。
多恵がギロっと柊介を見上げて、言った。
「とんでもないこと言わないでよ!」
・・・うん・・・そうなんだけどね・・
「・・・ひなたの気持ち優先するっつったの誰?」
「言いましたー・・・」
「そこで不貞腐れんなって」
宥めにかかった柊介を綺麗に無視して、多恵があたしをぎゅうっと抱きしめる。
肩で多恵が安心したみたいに息を吐いた。
あたしは、彼女の背中をポンポン叩く。
ちらっと柊介を見上げたら、ちょっと悔しそうな顔。
”八つ当たり”の対象にはなれても”愛情表現”の対象にはなれない柊介。
幼馴染って難しい。
いつか、柊介に一番に抱きついてくれるようになればいいなーって思ってるんだけど・・・
こればっかりは、外野が五月蠅くいっても仕方ない。
それに、多恵との関係を変えようと思うならば・・大きな壁を乗り越えていくことになる。
多恵にとっての完全無敵のヒーロー。
この世界でただひとり、多恵の気持ちを一言で浮上させられる人。
颯太兄。
・・・・がんばれ!!柊介!!
こればっかりはもう応援するしか出来ないのだ。
★★★★★★
教室に戻ってきた(というか、あたしを呼びにきた)和田くんと一緒に食堂までお散歩に出かける。
校内での突き刺さる視線にもようやく慣れた。
南ちゃんの時とはまた違った”嫉妬”の視線に最初は戸惑ったけど。
(南ちゃんと一緒の時に刺さるのは”羨望”の方だから)
「・・・やっと視線気にならなくなった・・」
渡り廊下を抜けながら、中庭をぼんやり眺める彼にそう伝える。
付き合い始めてやっと2か月。
まだまだこれからのあたしたち。
でも、和田くんは、え?という顔をしてこちらを見降ろして来る。
「・・・なんの視線?」
今度はあたしが怪訝な顔をする番。
あの、超分かりやすい黄色い声援と、取り巻きの女の子たちの甘い視線に気づいてなかった・・?
「・・・え・・?・・周りのみんなの・・」
「そんな見られてた?」
「気にしたこと無いの・・・?」
「・・全く。それに、剣道場に入ったら頭空っぽになるから」
あっさり言ってのけた彼が、にこっと人の好い笑みを浮かべる。
笑いかけられたあたしは、同じように微笑み返す。
(出来てる自信ないけど)
こういうとき、南ちゃんだったら、もっとずっと可愛く笑って見せるのになぁ・・・
あの、天使みたいな微笑みで。
「・・・和田くんが、ベスト8に残る理由・・分かった気がする・・」
「そう?」
「うん・・」
こくんと頷いたら、彼があたしの手を強く直した。
「でも、剣道場出たら、考えてるよ」
「え?」
「いっつも望月のこと」
「・・・・・あ・・・」
だから、帰りがけにメールしてるし。
と言われて、いつものように真っ赤になったあたしは何とか小さな声で
「ありがとう」
と言葉を返した。
あたしにとっての颯太兄は・・・間違いなく・・・この人です・・・
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