Novelber day 20 『地球産』

 この子は地球産まれでね。色々世間知らずかもしれないけど、よく面倒を見てあげてよ。

 そう、朗らかに告げられて連れてこられたのは、確かに人間の少女だった。そしてすぐに気がつく。彼女は世間知らずなのではなく、世間知らずにさせられているのだと。

「あ、あの……はじめまして。よ……よろしく、お願いします」

 辿々しいA銀河標準語で挨拶をした後、へにゃり、と不器用に笑ってみせる彼女。地球の、人間という種族のことは私もよく知っている。人間は非常に賢く、また同時に狡猾で、高度ではないが複雑かつ繊細な精神構造を持つという。特に地球産の人間は、他星産まれの者よりもその特徴が色濃く、強い不安感や憎しみを抱くと、様々な問題行動を起こすと警告されている。だからこそ、情操教育を丹念に行い、知能の面でも余計な事は植え付けないよう、細心の注意が求められる。

 だが、結局人間というものの教育は、睡眠学習や機械学習では到底足りないのだ。

「ようこそ、私のコロニーへ」

 笑顔を向け、握手を求める。なるべく人間が恐怖を抱かないタイプの表情と動作を心掛ける。彼女より三倍も大きな私の側にいるだけで、ストレスを感じるかもしれないから。

「あ、あ、はい……! あ、手、意外と、温かいんですね……えへへ……」

 不器用な笑みを浮かべ、額に玉の汗を浮かべる生き物の、小さな小さな掌。彼女の繊細かつ広大な精神に、私は上手く接せられるだろうか?――そう、人間を育てる為に真に必要なのは、「友達」という存在なのだから。

「緊張しないで。ゆっくりと、慣れていけばいいさ」

「あっ、あっはは……へへ、はい……」

 震えるような笑い声は、私の聴覚器官の受容体に心地よかった。まだ何もかもがこれからだけれど、彼女となら、上手くやれる気がする。

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