Novelber day 19 『カクテル』
気に入っている店なんだ、と彼は私の腕を引いて行く。入ったのは、夜闇の端に立つ小さなバー。カランカランと鳴るベルの音に、店主は眼鏡の奥の目をちらりとこちらに向けた。
「いらっしゃいませ」
燻したような声が、蜂蜜色の光の下に静かに落ちる。
「良いカクテルを作るんだ、此処の店主は」
座ったなりそう呟き、彼は店主へと微笑みを向ける。店主もまた、言葉もなく小さく笑う。
分かってしまった。彼がこの店に来た理由。――彼が、本当の意味で愛しているのは誰か、を。
「スクリュードライバー」
と、彼は注文する。そして私に向けて、優しく目配せをし、注文を促した。口元にだけ笑みを浮かべて、眼差しは酔ったように虚ろなままで。
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