Novelber day 21 『帰り道』

 帰還せよ。帰還せよ。その命令だけを、私は遵守しています。

 帰還せよ。帰還せよ。私の命と細胞に刻まれた、帰巣本能のようなそれに従い、私は星の海を泳ぎます。

 私は、この宇宙船の中で生まれました。冷凍精子から作られたデザイナー・ベイビーです。貨物室の中には、永く冷たい眠りについた沢山の人々や、動植物が横たわっています。私達は代々、彼らを母星に送り届ける、快適で安全なそらの旅を提供する為の、宇宙船の備品です。

 帰還せよ。帰還せよ。日々、その宿願にも似た想いが、私の中で強く鼓動します。

 帰還せよ。帰還せよ。しかし、その帰るべき母星という場所に、私の居場所など無いことも、分かっています。そもそも、そこは私の故郷でも何でも無いのですから。

 けれどどうして、こんなにも帰りたいのでしょうか。ただの、脳にインプットされた命令、錯覚に過ぎないのでしょうか。

 私はきっと、待ち望んでいるのです。

 帰還せよ。帰還せよ。そこに私の居場所は無いとしても、いつかその大地を両手で抱いてみたい。地に伏し、倒れる間際でもいい。

 いつか帰る場所の為に、生物は生きているのだから。きっと、私も。

 帰還せよ。帰還せよ。だから私はこの記憶を、次の私にも継承させる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る