Novelber day 17 『錯覚』
この前、魔女のお店に行ったよ。そう言うと、みんなが笑う。
「彼女はただの手品師だよ」
「騙されてるのさ、君は」
いつか変な物を買わされるんじゃないか? 財布は無事か? 口々に僕を揶揄する。でも別に、嫌な気はしない。騙されているのは、彼らの方だから。
「いらっしゃい、また来てくれたのね」
僕が店に行くと、彼女はいつも笑ってくれる。陰気な、黒い帽子の下で、パッと目を輝かせてくれる。
いつもの、と頼むと彼女は意気揚々と杖を振る。すると空中に花が咲く。火が灯る。星屑のような光が舞い散る。
「心から信じてくれる人の目にしか、魔法は美しく見えないから」
だからみんな、私の魔法を錯覚だなんて言うけれど――と、彼女は口下手に、ぼそぼそと言う。はにかみ、頭を掻きながら。
「僕は、錯覚とは思わないよ」
そう告げると、彼女は顔を赤くしながら、誤魔化すようにへらりと笑った。
……少し、嘘を吐いた。正確には、心から魔法を信じている訳ではなく、ただ、彼女を信じているだけなのだ。彼女の朴訥な心を、曇らせたくないから……このまま、僕が純粋な人間なのだと、錯覚し続けてくれればいい。
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