Novelber day 7 『秋は夕暮れ』

 秋は夕暮れ。夕日の差して山の端いと近うなりたるに――

「それなに? 呪文?」

 冷たい風に髪を膨らませながら、一人で詠っていた私の横で、友人がそう声を掛ける。彼女は猫のように私の膝に飛び乗って、ニコニコと微笑みながら、私の腰に長い尻尾を纏わりつかせる。そうだ、この子は知らないんだ。その随筆を、それが生まれた歴史を、その風景を……。

「これはね、私の故郷で聞いた詩歌でね……」

 そう、故郷。今はもう遠い遠い、次元さえ隔てた遙かな故郷――もう帰れない場所。

 けれど、この異世界でも、夕暮れの美しさは変わらない。秋の肌寒さも。山陰の美しさも。たとえ、飛ぶ鳥は烏や雁ではなく、見慣れぬ巨鳥や竜種であったとしても……。

 この世界で新しくできた友人の頭を撫でながら、続きを詠う。彼女は不思議そうに、細長い瞳孔を細めている。

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