Novelber day 4 『琴』

 木造住宅の二階から、琴の音色が響くことがあった。そこは古いばかりのぼろ屋で、かつてあったのであろう、屋敷としての威厳は完全に失われ、寂れていた。

 それでも、その琴の音が聞こえると、ハッとして立ち止まるのが常だった。その音色は美しかったけれど、どうしようもなく物悲しかった。何か訴えるようでもあったけれど、曲名も、背景も分からず、意図は読み取れない。そしていつも、途切れるように終わった。オルゴールの螺旋が切れた時のように。音を千切って、風に蒔くように。その度に、(死んだ)と感じた。

 やがて、古い屋敷は取り壊された。あの琴を弾いていたのは誰だったのか、僕は知らない。むしろ、奏でていたのは、屋敷そのものだったのかも。

 ただただ胸を凍えさせる、悲しい調べだった。

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