Novelber day 2 『吐息』

 フゥッ、と吐息を吹き付ける。すると彼は目を覚ます。

「おはよう、お寝坊さん。今日は良い夜ね」

 そう微笑みかけると、彼もまた微笑み返す。幸せな目覚めを祝福するかのように、彼の首に腕を回し、抱き締める。

 ……青白い、冷たい肌を。

 彼の体を動かすのは、吹きかけたこの魔法の煙草の煙。煙が切れたらまた眠る。物言わぬ死体となって。

 だから何度も、この吐息を吹き付ける。繰り返す目覚め、交わされる微笑み。

 いつかこの煙草が無くなってしまったら? 売ってくれる魔法使いが姿を消したら?

「…………」

 甘い香りの煙草を燻らす。その時こそ幸福に、私は彼の隣で眠れるだろう。

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