第6話 新しいヒロイン?

部活、それはどんな高校生も入っているものだろう、もちろん帰宅部も含めてな。それはとても大切なものだったり人によってはめんどくさいものであったりする。


それはラブコメでも変わらない、部活を主題としたラブコメもあるくらいだ。


ということは、だ、今だけは最も主人公感のある七条連が入っている部活はかなり重要なことであることは確かなのである。

主人公がいる部活=何かが起こる部活である、つまり七条蓮が入る部活に入ればおのずと俺も主人公に近い存在となれるということである。


そして今、俺と七条連は先生に呼び出され部活をどこにするのか聞かれていた。


「おいお前たち、そろそろ部活を決めてくれないとだな⋯⋯」

「⋯⋯はい」

「了解です!」

七条は歯切れ悪く答えるが俺は自信満々に言った。


なぜなら俺にはもう行く部活が決まっているからな、その部活とはもちろん俺の隣にいる主人公感が強い七条連と同じ所だ。


だからこそ俺に迷いなどないのさ。


「はぁ、部活って面倒くさくて嫌いなんだよな」

先生からのお叱りの言葉を受け取ったあと俺と七条は特に何も話すことなく教室に戻っていた。それと同時に七条はため息を吐くかのようにそう言葉をもらした。


俺はその言葉を見逃さなかった。


「お前ってさ結構受動的だよな、莉子さんのことに関してもそうだし、他の授業でだって特に何かを発言する訳でもない、お前はいつだって何かをする方じゃなくて何かをされる方だ」

「いや、俺だって神石さんを⋯⋯それに君だって」

「?、莉子さんと何があったか知らないがな」

何かを言おうとして口をつぐんだ七条を疑問に思いながらも俺は話を続ける。


「俺はそんな受動的なお前に負けはしない、だから見てろよ、それに俺はもう入る部活は決めている」

びっ、と人差し指を七条の方に向ける、まぁこれで七条が少しでも部活入ろうかなと思ってくれるといいなと思っていたりもしている。だが、主要の目的がそれでもさっきの言葉には俺の本音も含んでいた。

「……………」

七条は何も言ってこなかった。


「じゃあな、七条蓮」

「……………」

それでも七条は黙り続けた。そんな七条を冷ややかな目で見ながら後ろに俺はその場を後にした。



「なんなんだよ………」

一人残った夕日差す教室で七条蓮はそうつぶやく。特に敵視していたわけじゃない、むしろ誰ともかかわらないようにしていたはずなのに、なぜあの来栖は自分を敵視するのだろうかと七条は考え込む。


『俺は受動的なお前に負けはしない』


少し前に言われた言葉を思い出す。何で勝負しているのかはわからない、けど彼が何やら並々ならぬ思いを持っているのはわかった。七条は少し顔をしかめながらも気を取り直して頭を振る。


「ふぅ、まぁいいや早く帰ってアニメを………わっ!」

と廊下に一歩足を踏み出したとき頭に紙が張り付いた。一瞬にして七条の視界が埋め尽くされる。それを少し乱雑に引きはがす。

「ん?漫画研究会?」

その引きはがした紙には『漫画研究会へいらっしゃい!アットホームな場所だよー、漫画見るだけの部活だよー、楽だよー、漫画を愛するもの大歓迎だよ!』

と、とてもホップな書式で書かれていた。何もしない部活、何もしなくていい部活、これは何もしたくない七条にとってはあまりにも魅力的なものであった。


「いいかも………」

七条は少しだけ口角をあげた。



「すいませーん、見学に来たんですけどー」

チラシに書いてあった道案内の通りにすすむと漫画研究会と書かれているプレートが目に入り、ぎりぎり届くか届かない声を発しながら教室のドアを開ける。

「やぁ君はもしかして漫画研究会に入りたい人間かな?」

そんなあまりにも陰キャな七条に対して明るく接するのはおそらく先輩であろう人であった。


綺麗な黒髪を両肩に垂らしており、つけている丸眼鏡の裏に見えるつぶらな瞳とその決して高くはない身長によって保護欲をそそられる、スカートの丈はひざ下まで伸びており全体を見れば真面目な雰囲気が感じ取れる。


「根暗な君の名前は?」

「ねくっ!………七条蓮です」

こんな失礼なこと言う先輩やだ帰りたい、と思いながらも彼は陰キャなためそんなことは言えるはずもなかった。


「そうか七条、私の名前は香苗木凛かなえぎりん、よろしく二年だ」

「………はい」

凛という名前の先輩は七条に対して握手を求める。その握手に七条は指先を当てる程度の軽いもので答える。


「ところで七条はなぜ漫研に?」

「えっと、あのー、そのー」

楽そうだったから、なんて言えるはずがなかった。


「楽そうだったから、かな?」

「っ!」

「あはは!そんな怖がらなくていいんだぞ、別にとって食おうとか思ってないからな」

「けど………」

「いいんだよ、本当に」

凛はそう言って笑った、無理をしているようにも見えた。


見ると凛以外の部員は見当たらなかった、たくさんの漫画がおかれている本棚はほこりまみれで部屋の中心には質素なテーブルが置かれているだけだった。


「他に部員はいないんですか?」

「いるよ、いっぱい」

「え」

その言葉に少し動揺する、この状況を見るとどんなに取り繕ってもいっぱいとは言えなかったから。


すると凛はおもむろに本棚を漁り始める。

「えーと確かこの辺に⋯⋯あった!これだこれほら七条、見てみろ」

凛が持ち出したのは今年の部員が書かれている報告書だった。


凛はそれをテーブルの上に置き、ばっと勢いよく今年の部員数の所を開いた。


そこに書かれていたのは、35人、そうこの部活には今現在凛も含めて35人も在籍しているのだ。


「これって⋯⋯」

「うん今年の部員数、多いよな」

「えっと、⋯⋯はい」

「けどこのうちの30人はいわゆる幽霊部員ってやつさ、入部以来一度も部に来てない、他の五人もたまにしか来ないしね、君みたいに部活がめんどくさいんだろうね」

「⋯⋯⋯⋯」

七条は何も言えなかった、なぜならそれは事実だったから、彼は口をつぐむしか無かった。だが彼は他の人と違うということを好む人間である。つまり⋯⋯


「あぁ、あの、俺は来ますよ、毎日、絶対に、俺は他の奴らとは違うんで」

他の奴らとは違うと証明したがる、ある種の厨二病である。まだ見学の途中だと言うのにもう入る前提で話している。


「⋯⋯そうか、それは良かったよ」

凛が見せたその笑顔はあまりにも乾いていて、少し恐怖すら感じるものだった、期待はしていない、七条はそれをひしひしと感じた。


「期待なんかされていないかもしれないですけど、俺は来ます、だって他の奴らとは違いますから」

だが今の七条はどうしても他の奴らと違うと証明したがる厨二病タイムであったため、そんな凛に臆することなく言葉を発した。


「あははっ、そうか、そうかっ!」

その時の凛が見せた笑顔は乾いたものなんかではなく、無邪気で愛らしい少女のように可愛いものだった。


「じゃあ改めてよろしく、七条連」

「はい、よろしくお願いします」

二人はもう一度固く、強く、握手をした。


七条連は漫研に入ることを決めたのであった。



そして七条連がこの部活に入れば自ずとあの男も入ることになるのであった。

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