第5話 初恋の相手

いやー中々面白かったな僕愛、通称僕が選べるのは一つの愛、内容は誤って男子校に入学してしまった女子生徒内海奏が女子ということを隠しながらも男子校に通うという結構王道展開の少女漫画だった。


けど出てくる男子たちの個性がかなり強くてヤンキー系甘々男子や俺様系男子などよりどりみどりであった。


「ふっふっふっそして今日が開戦の時である」

今、俺の部屋の前に広がるは数多の僕愛グッズ、これを学校に持っていき莉子さんとの会話の機会を作る!


「よし、では行こうか」

踏み出す、大きな1歩を、俺の新たな伝説へのその1歩を




「りこりこー、ご飯食べよー」

「あ、うん」

莉子さんは俺の席に並べられた大量の僕愛グッズを素通りして友達と机をくっつけて昼飯を食べ始める。


大丈夫、まだ大丈夫。


落ち着け俺、莉子さんはただ気づいていないだけだ。うん、いつか必ず声をかけてくれるはず。


「莉子さぁん!僕と付き合ってくださぁい!」

「ごめんなさい」

最早日常茶飯事と化すまでになった莉子さんへの公開告白はもちろん断られる。


そして時間は過ぎていき放課後

「あ、あの七条くん、今日も一緒に帰らない?」

「いいよ」

「やった!」

「そんなに喜ぶことー?」

「うん!」

そして七条と莉子さんは教室を出ていった。その時の莉子さんの頬は何やら赤に染まっていたような気がした。


すると莉子さんが一瞬俺の方を見た気がした。

(ま、まさか!俺に話しかけようと!?)

(なんか来栖くん僕愛グッズ持ってたけど、花瓶を前にしてなんか変な笑い方してる人だし、話しかけないでおこ)

と、花瓶作戦が来栖の想像以上に失敗していることも知らずに未だ期待している憐れな来栖くんであった。


「ふざけんな七条!」「殺すぞ!」「おらぁ、おらぁ!」

後ろでは七条を非難する声が⋯⋯


結局何も起きず七条と莉子さんが帰ったあと、俺は並べていた僕愛グッズを急いでかき集めてバックに詰め込み一人で机に突っ伏していた。

「マジかー、全然気づいてくれなかったよー莉子さーーーん」

あ、やべ、なんか泣きそうになってきた。


「何が莉子さんよ、バカ」

「あいた」

そんなとき、俺の頭にぽふっと柔らかい衝撃が襲った。


その聞き覚えのある声に嫌気がさしながら渋々と振り返る。


「何か用か?神宮寺」

「落ち込んでいたあんたを見かけたから声をかけただけ、というかその神宮寺ってのやめて欲しいんだけど、霞って呼んでよ」

赤色の髪をポニーテールにまとめ、凹凸がはっきりとした美しいスタイルに見惚れるような吸い込まれる紫色の瞳、美人、そう言う他ないような人物が俺の後ろにたっていた。顔はしかめっ面だったが⋯⋯


「あっそ、俺は大丈夫だぞ、平気だ平気それに俺は絶対にそう呼ばない」

すると神宮寺はより眉間にシワを寄せて口を開く。

「嘘、だって目元潤んでるじゃん、泣いてたの?」

「泣いてない」

「たくっ、ほら話聞いてやるから言ってみ?少しは楽になるかもよ」


神宮寺は俺の隣に座って、俺の方に向き直す。そんな神宮寺を見ないように俺は校庭を見下ろす。


あぁなんで、こいつはこんなに優しいんだ、やめてくれよ、

また、また好きになっちゃうだろ。



俺、来栖晶は神宮寺霞のことが嫌いだ。



それは俺が小学生の時のこと、曲がりなりにも明るいキャラだとは言えなかった俺は果てしなく明るく美人でクラスの人気者だった俺は不釣り合いにも神宮寺霞に惚れてしまった。


そこで俺は勇気をだして神宮寺に告ったのだ。学校の校舎裏王道中の王道な場所で言った


『じ、神宮寺さん、お、俺と付き合ってくれませんか!?』と


夜、何度も何度も考えては捨て、結局何も思い浮かばずテンプレートの告白の言葉を噛み噛みな日本語で伝える。けどその時の俺にとっては精一杯の言葉だったんだ。


それを神宮寺は

「君誰?」

とだけ答えた。


その日は泣いた、泣いて泣いて泣いた。枕がびしょ濡れになってしまうくらい泣いた。


そして次の日泣く泣く学校に登校すると

「あ、霞に告ったやつだ」「振られたやつだ」「憐れなやつだ」


とクラス中の皆が俺の事を嘲笑うかのような目で見てきたのだ。


(なんで皆知って⋯⋯)


そこで俺は神宮寺霞の方を見た。


彼女は気まずそうな顔でクラスの輪の中にいた。


(あぁそういう事か⋯⋯)


彼女がクラスに広めたんだ、だってあそこには誰もいなかったのだから⋯⋯


この日から俺は神宮寺霞が嫌いだ。




「ねぇ、もしかしてまだあの日のこと根に持ってるの?」

少し心配したような

「そうだな、その通りだよ」

「でもあれは⋯⋯」

何かを言おうとして口をつぐむ。


「俺はお前が苦手だ、たとえお前が人気者であろうと、美人であろうと、何があろうと、何をしようと、それは多分変わらない」

俺は机にかけていた通学用バックを肩にかけて立ち上がる。

「⋯⋯⋯⋯」

神宮寺は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「じゃあね、神宮寺

「⋯⋯うん、じゃあね来栖」

心底寂しそうに声を細くして神宮寺は答えた。少し心苦しいところはある、けどもう一度好きになんてなったりしないように突き放さなきゃいけないんだ。








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