第4話 神石莉子

特に何をしたわけでも、された訳でもなかった、けどなんとなくこの世界は生きずらかった。


「お前は天才だ!きっと大物になるぞ!」

お父さんはそう言って過度な信頼を私に寄せる。


「莉子さん、僕と付き合ってくれませんか?」

学校一のイケメンは自信満々にそういった。少し下に見られている気さえした。そのせいか癪に触った、だから盛大に振ってやった。


そんな私は元々そんなに明るいキャラでは無かった。教室の隅っこで本を読むだけのそんな人間だった。


けど隣で笑う女子が、友達と変な話で盛り上がっている男子が、羨ましくない訳じゃなかった。


私も皆と一緒に笑いたかった、なんでも話せる友達が欲しかった。けど出来なかった·····


だから転校して全て最初からやり直そうと思った。元気で活発な少女、それを演じようとした。少女漫画で得た知識で食パンを咥えながら道をダッシュして登校した。


何か間違えている気もしたけれど羞恥心を抑えて私は走り続けた。そのせいだろうか、いつもより周りが見えなくなってしまっていたために横から来ていたりトラックに気づかなかった。


そんな時彼と出会った。

「危ない!」

車がアスファルトを削る高い金属音と共に私の前をある影が包んだ。

「えっ」

その人物が私を抱えて転がることで私は死なずに済むことができた。


「あなたは·····」

「··········じゃあ気をつけて」

彼は私の身の安全を確認するとすぐに立ち上がって自転車にまたがった。

「ちょっと待って、名前を!」

「いいよ、僕の名前なんて、って·····君も僕愛の小説好きなんだね」

すると彼は私の鞄の隙間から見えたらしい本を見てそう言った。

「え、もしかしてあなたも、ですか?」

それは私が大好きなとてもマイナーな小説だった。一応アニメ化もしてるしコアな人気はある。


でも、だとしても嬉しかった、誰も知らないと思っていた、誰ともこの話を出来ないと思った、初めて本当の友達ができるのではないかって、高揚したんだ。


「うん、僕も好き、じゃあ僕はこれで」

「あっ!ちょっ」

彼は私の事なんて気にもとめずに自転車を漕いで行ってしまった。


「同じ制服だったな」


これが私、神石莉子と七条連との初めての出会いである。



「どうしたの?何か考え事でもしてた?」

夕暮れの帰り道、私が無理やり誘ったのに七条くんは面倒くさいと言いながらもちゃんと一緒に着いてきてくれた。

「え!あ、いや、ちょっと大切な記憶を思い出してただけです」

「ふーん、そ」

「そ、それよりさ!昨日の僕愛見た!見た、見た!?」

いつも以上に声を高めてはしゃぐように言う。

「うぐっ、君は僕愛の話となるとテンションが一段階上がるよな」

そんなうるさい私に対しても君は優しいからウザがりながらもいつも答えてくれるよね。

「だって、大好きなんですもん」

「そう、まぁ僕も好きだけどね、今回の話はやっぱり主人公のいちごが⋯⋯」

「あれいいですよね!あとちょっと俺様系のレオン君が⋯⋯」

「ははっ、君そこ好きなんだ」

「うん!あのシーンほんと最高なんですよ!」


興奮気味で喋ってしまって汗が滲んできてしまった。やっぱり君と話すのはとても楽しい。ずっと、この時間が続けばいいのにな⋯⋯



「は?何あれ、ふざけやがって」

今日、俺は七条連の後をつけている。その理由は花瓶作戦がなぜか失敗したというのもあるが一番の理由としては今日の放課後莉子さんが「七条くん、一緒に帰りましょ」その一言で俺は七条の後をつけることに決めたのだった。


けどなんなんあれ!俺と一緒にいる時は苦笑いしかしないくせに七条といるときだけそんな顔しやがって⋯⋯


「⋯⋯くそ」

意識せずともそう言葉が漏れていた。


ちなみに後日僕愛を一気見した。


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