第3話 ミッションONE
ラブコメにおけるヒロインは一人だけか?いいや違う必ずと言っていいほど複数存在している、そして誰と付き合うんだ?と胸をドキドキさせるのがラブコメだ。最高だろう?誰でもラブコメの主人公になりたいと願ったはずさ、ということでラブコメの主人公になるべく現在、今だけは俺より主人公感のある七条連を尾行することにした。尾行していればサブヒロインぽい可愛い女子が現れるかもしれないからな。
一限目国語
「よーしじゃあ周りの人たちと班を作って太郎が何で酒の瓶をお母さんに当てて「とっとと失せろくそばばぁ!」と言ったのか考えてみましょう」
「「はーい」」
生徒たちは各々机を向かい合わせて話し始める。
そして例に外れず俺と七条も机を向かい合わせて話を始めた。
ここで主人公力を身につけてやる。
「いやまずさ、この太郎ってやつゴミすぎるだろ、なんで30になってんのに働かずに酒飲んでんだよ、それに加えて母親に癇癪起こすとかもうまじで何も言えねぇよ」
相良がため息混じりにげんなりとした表情で国語の教科書とにらめっこしている。
だが今俺がにらめっこしているのは隣にいる俺の永遠のライバル七条連、キサマダ。
「な、何かよう?」
「いや、何も·····」
「何もってめっちゃ見てくるじゃん」
「気にするな、自然体でいるといい」
「無理でしょこんなに見られたら」
「ふむそうかならばチラ見にしておこう」
「チラ見もして欲しくないんだけどな·····まぁそれでいいや」
面倒くさくなってきたのか深いため息をついてから七条は教科書を読み込み始めた。
「この”太郎と母さん”の話中々心に来ないか?なぁ?えーっと確か」
「七条、七条連俺の名前だよ相良くん」
こいつ、相良に名前覚えて貰って無かったのか、ププーちょー陰キャじゃん、陽キャ度でいったら俺の勝ちじゃん。やったぜ。
「あーそうだったな、じゃあさ七条、お前はこの時の太郎の心情分かるか?」
「·····僕には分からない、ごめん(えー、来栖くん秒刻みで僕のことチラ見してくるんだけど、喋りずらすぎる·····)」
「んーやっぱそうか」
なんだこいつ、莉子さんの時と違って口数が減りやがって。というかお前髪長すぎな、その長さだもギリ目が見えるくらいだぞ。
「つーか来栖ー、お前もうちょっと喋れよな」
「うるさいぞ相良焦らずとも答えてやる、太郎は悲しかったんだよ、そして情けなかった、何もできない自分と全てを持っている元同級生達とを比べてしまったのさ、その耐えようもない怒りを母親にぶつけてしまった、これが答えだ」
「あーつまり太郎は悲しかったって事だな」
「·····まぁそういうことだ」
俺の必死の説明が簡単に纏められたのがちょっと悲しくなったが、もう時間が無かったので文句は言っていられない。それより七条のやつまじで何も言わねぇし動かねぇな、ずっと下向いたままだ。
「それじゃそろそろ発表してもらおうか」
先生がパンッと手を叩くことでザワザワしていた教室は一気に静まり返った。
そして各々が発表をしていき国語の授業は終わった。
時は進み放課後
さすがに七条を見るのに飽きてきた、だってあいつ授業中ならまだしも休み時間でさえずっと机に突っ伏したまんまだったんだもんな、だと言うのに莉子さんは七条に話しかけに来ていたりしていた。マジで許せねぇ。だがこのままでは七条に負けっぱなし、というわけで俺は今日実行する予定だった花瓶の花の手入れ作戦を実行しようと思う。
作戦を説明しよう、まず放課後の掃除が始まる前に莉子さんの筆箱を盗む、そして掃除が終わり莉子さんが帰った後に机の中に莉子さんの筆箱を設置する、その後誰も花瓶の花の手入れをしていないことを確認してから俺が花の手入れをする、そして筆箱がないことに気づいた莉子さんは学校に戻ってきて俺が花の手入れをしている瞬間を目にしてしまうのだ。そして今日は職員会議によって部活がないことは知っている!
「ふふ完璧だぜ」
「何が完璧なんだ、早く机運べよ」
と考えているとどうやら声が漏れてしまっていたようで机を持っている相良に声をかけられた。
「ふっ相良よ、お前はやはりモブだな」
「あー?何言ってんだお前、いいから早く運べって」
「了解した」
机を運び掃除を淡々と進めていく。
「じゃあ私ゴミ出し行ってきます」
と莉子さんがゴミ箱からゴミ袋を取り出してそう言った途端他の男子が俺も俺もとゴキブリのように莉子さんの周りに集まりだした。
「じゃあ僕も」「俺も」「いやいや俺も」
「おーいそんなにいらないぞー」
「あはは」
先生のその一言に莉子さんは乾いた笑みを浮かべた。
そしてその輪の中に俺もいた。
「莉子さん俺もぉぉぉ!」
はっ!しまった違うこれはチャンスだ、莉子さんの可愛さについ脳が停止していた。莉子さんがごみ捨てに行った後に筆箱盗もう。←ゴミである。
「わ、私はその····あっ!七条くん一緒に行きませんか!」
すると莉子さんは俺らの狭間から見えたらしい七条の元に小走りで向かうそれも満面の笑みを浮かべて。七条は·····俺らのことなんか無視してひたすらにほうきで地面のゴミをはいていた。ただひたすらにそれだけをしていた。
また、あいつか·····あいつの、何もしないあいつの何が·····
「莉子さぁん!」「なんで七条なんかに!」「俺の方が力持ちですよぉ!」
「ごめんね、私しつこい人はあんまり好きじゃないの、七条くん一緒に行きませんか?」
「いや僕は·····」
俺たちにとんでもない爆弾発言をした後莉子さんは軽い口調で七条に話しかけた。
「行きましょうよ七条くん」
「やだよめんどくさい」
「そんなこと言わずにお願いしますよぉ」
「··········仕方ないな、一個僕に渡してよ」
「ありがとうございます!」
七条が手を出すとゴミ袋の片方を莉子さんが渡した。嬉しそうに笑みを浮かべながら·····、ふざけやがって、七条、俺はお前みたいに受動的になったりはしない、能動的に動いて莉子さんの心を奪ってやる。
「じゃあ行きましょう七条くん」
「おう(なんかまた来栖くんからの視線を感じる、怖い、それにさすがにちょっと気持ち悪い)」
!、七条のやつなんかこっちを見てないか?はっ!そういう事か、お前も俺の事をライバル視してるって事だな、いいぜどっちがラブコメの主人公にふさわしいか勝負だ。
「(来栖くんとはちょっと距離を置こうかな·····)」
・
放課後、各々が帰り教室に一人俺だけが残った。
相良や他の友達に帰らないのか?と聞かれたが強い意志を持って「俺には使命があるんでね」と返してやったぜ。
「さて、では始めるか」
莉子さんの筆箱はもう戻してある、あとはこの花瓶の手入れをするだけだ。
「よっしゃ!やってやるぜ!」
数分後
「···············終わってしまった」
今気づいたけどそもそも俺花の手入れの仕方なんて知らねぇわ、花瓶の水を取り替えて違う水入れたらもう何したらいいのかよく分からなくなっちゃった。
えーけどどうしようまだ莉子さんは来てないし··········うーん
「そうだ!」
・
(筆箱忘れちゃったー、でもなんでだろうバックの中には入れてたはずなのに)
そこには廊下を小走りする白髪ショートボブの美女神石莉子の姿があった。
「ちゃんと机の中にあるかなー、ん?教室に誰か·····がっ!」
そこで教室の窓から顔だけ出して神石莉子が見たのは、花瓶の中に入っている花を延々と撫で続けている黒髪で短髪の青年来栖の姿であった。
「君の名前はあかりちゃん、うふふ君の名前は·····しずちゃんだ」
菩薩のような穏やかな表情で花を撫で続けるその様は狂気のようにも思えた。
「あが、が·····が」
さっきまで美女だったはずの彼女の顎はちぎれんばかりに開いてしまった。
「うふふ、あはは」
気持ちの悪い笑い声をあげているこの男、内心では「花を愛でるとか最高に主人公じゃん」とか思っている。ただの馬鹿である。
「きょ、今日は帰ることにしよう、そしてあれは忘れよう、うん、その方がいい」
そうして神石莉子は決して音をたてずにその場を離れた。
そして神石莉子にヤバいやつ認定されたこの男は未だに花を愛で続けていた。
「うふふ、あははっ!」
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