第2話 圧倒的主人公

ラブコメの主人公は遅刻をするものだと相場が決まっている。だから俺は学校の授業が始まる2時間前に起きて優雅にラブコメ漫画を見ながらその時を待つ。そして始業時間15分前になってから部屋のドアを勢いよく開け


「やっば!遅刻だ!」

キタコレ、完璧だ。ドアの開け方もこの情けなさを兼ね備えた声の抑揚も、全てが完璧、これぞラブコメ主人公よ。


「あんた、飯どうすんのよ!」

母さんからの怒号の声が聞こえた。

「ごめん遅刻しちゃうから、このパンだけもらっておくね!」

キッチンの上に置いてあった食パンを咥え、玄関の扉をけたたましく開けて飛び出した。


「·····あの子、あんなキャラだったっけ?」

と我が母親がそんな疑問を抱いているとも知らずにチャリを漕ぎ出した。


「莉子さーん待っててねー!」



そして学校の下駄箱の前で麗しき白髪ショートボブ美女莉子さんがオロオロとしていた。ふっふっふっ、これはチャンスだぜ


「おはよう莉子さん」

「え、あ、えーっと」

「同じクラスの来栖です」

よし決まった、莉子さんは戸惑っているがこれは好調なスタートだぞ。


「あー七条君の前にいた」

「かはっ!」

俺の存在は七条の前の存在としてか認識されていなかったのか!


いや待てよ、これは逆にチャンスじゃないか?ここで俺の存在を少しアピールして放課後花瓶の花を取り替えたりすることで好感度を上げることが出来れば·····ふっふっふっ莉子さんは俺んもんだぜ。


「あはは、覚えて貰っていなかったんだね、でも同じクラスだから一応覚えて貰えると嬉しいな」

よし大分爽やかに言えたぞ。

「ご、ごめんね、ちゃんと覚えるよ来栖くん」

手を慌てて横に振る莉子さんがただただ可愛い。癒される。


「それはよかった、そういえば何か困っていたみたいだけど·····」

「あ、それは自分の下駄箱がどこか·····あ!七条君!ごめんね来栖くんまた教室で!七条くーん!」

両手を重ね合わせて小さくて可愛い頭をペコっとしてから急ぎ足で俺の後ろにいたらしい七条に向かって走っていった。


「···············」

俺はそんな莉子さんを見ながら背を向ける。七条、俺はお前を主人公と認めよう、だがな俺はお前を超える主人公になる、見てろよ。


「もう七条君ったら登校時間ギリギリじゃないですか」

「いや好きなアニメを見るためなら仕方の無いことだと思うけど·····それに君だって初日遅刻していたじゃないか」

「あ、あれは·····そのー色々な事情があってですね」

「ただの寝坊だったりしてな」

そう言って七条は笑った。少し無邪気で可愛げのある笑顔だと思った。


「···············外れです」

「じゃあ今の間はなんだよ」

「あーもううるさい人ですね!あーそうですよ寝坊ですよ!深夜アニメ見てたら止まらなくなっちゃって夜更かししちゃったんですよ!」

この長文の言葉を莉子さんは一息に言い切って見せた。


「ははっ」

「なんですか!ははって!ぶち殺しますよ」

「いやこわぁ」


··········なんだよ、俺の方が主人公なのに、主人公のはずなのになんで莉子さんは七条と喋る時の方が楽しそうなんだよ。


「おーい七条に莉子、早く教室入れよショートホームルーム始まるぞ」

すると我らが担任田中清先生がイチャイチャする2人に軽く注意をした。

「「はーい」」


「七条くんのせいで二分遅れましたね」「お前のせいだろうが!」

何やらイチャイチャしながら二人は俺の横を通り過ぎて行った。りこさんはまるで俺に気づいている様子は無かった。


「何やってる来栖、お前も早く入れ」

「先生、俺はあいつら絶対に許さないから!絶対に七条なんかに負けないんだからぁ!」

「えーーー」

目から涙を滝のように流し、教室に向かってひたすら走った。その後の俺を見る先生の顔が若干哀れんで見えたのはたぶん俺の気のせいだろう。





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