来栖くんは主人公になりたい
紅の熊
第1話 ラブコメ
俺は数々のラブコメを見てきた。そんな俺から言わせてもらうと、現実世界もラブコメにできる要素がふんだんに散りばめられているということだ。いや違うな、散りばめられているんじゃあない作るんだ、俺自身で。そしてなってみせるラブコメの主人公に!
「ふっここだな」
十字路の壁に背中を預け、その時を待つ。しばらくすると、「やっばーい!」という声が俺の耳に入ってきた。やはり来たな、この時が!
「遅刻遅刻〜!」
ドタドタと効果音がするんじゃないかと言うほど大きい音が近づいてくる。待っていたそ、このときを!
3、2、1、今だ!
「ばっ!」
そして俺は一歩足を踏み出した。瞬間、俺の前を強烈な風が通り過ぎ軽々と後ろに吹き飛ばされた。
「ふむ、これではダメか」
なるほど、あの子は運動神経良さげの子かふむ、それでは趣向を変えてみよう。
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン、といやらしい鐘の音と共にSHRが始まりを告げた。
「起立、おはようございます」
典型的な日直の挨拶により皆が立ち、頭を垂れ、そして座る。
そう、こういうなんて事ない日々の中でラブコメという鐘の音はいつの間にか始まっているのさ。
「あー、今日は転校生を紹介するな」
瞬間どよめくクラス内、だが俺の心だけはひどく平穏だった。そう俺に分かっていたのだ今から入ってくる子がどんな子かも全てな。毎日あの十字路で遅刻遅刻少女(仮名)を待っていた甲斐があったということだ。
「えーマジかよww!誰かな?やっぱ女?女かぁ!?」「うるせーぞ、朝日」「はっはっはつ、今日もみんな元気だなぁ」
騒々しいなお前ら、少しは俺みたいに落ち着いたらどうなんだ。全く、まぁお前らは俺の踏み台なのだから気にする必要など無いというのに。まぁ仕方ないかモブは自分をモブだと気づけないみたいだしな。俺はいつか主人公になる男、そこらのモブとは違うのさ。
「入っていいぞ」
「失礼します」
ガラッと教室の扉を横に引き、その転校生とやらが教室に入ってきた。その転校生は白髪のショートボブで、スラリとしたモデルのような体型、だが出るところはしっかり出ていて目を引くものがちゃんとある、極めつけはその顔だ、きゅるんとした可愛らしい赤色の瞳、そしてどこか大人っぽさも兼ね備えているときた。
うんいいぞ、この絶対に高校にはいないだろう感を体現しているし、この5月半ばという中途半端な時期に転校してくるのも素晴らしい。青春の一ページを飾るにふさわしい人物だ。
「えーと、神石莉子と言います、神田高校から転校してきました」
「えー、あの名門校の!?」「すげー」「なんでこんな平凡な高校に⋯⋯」
きたきた、何故か名門校から転校してくるというラブコメのテンプレ!その理由に彼女の闇が隠されていたりするんだよな。
「一年間よろしくお願い⋯⋯」
すると莉子さんは俺の方を見て動きを止める。くるぞくるぞ、ラブコメテンプレその1”あ!あんたはあの時の!”が。ウキウキしてその感動の瞬間を待つ、だが決して顔に出してはいけない、ほんの少しのニヤケもラブコメにおいては許されないのだ。けどなんのリアクションもしないのも少し変だからな、ちょっと目を開くリアクションとかしとくか。
「あ!君はあの時の!」
キターーーーーーーーーー!すげぇ!マジかよ、本当に現実に起きる日が来るなんて。ちょっと気取るか、やれやれみたいな感じで、だって俺ぶっ飛ばされたもんな。
「はぁ、まさか君がこの学校に来るなんて、想像もしなかったよ」
ちょっとため息を入れるこの感じどうよ!Theラブコメだと思わないか!
「君もこの学校だったんだね!良かった!」
すると莉子さんはズカズカと俺との距離を縮めてきた。おー結構積極的ヒロインなのね。
「良かったって君ねぇ俺の事を吹っ飛ばしたのは忘れないからね」
「怪我は無かった?体に異常とかない?」
「大丈夫気にすんな、それよりもあんた転校初日なのに遅刻しそうになるとか大丈夫か?」
いいぞ!今の俺は最高にラブコメの主人公だ。
「あの時君、すぐにどっか行っちゃってさお礼も言えなかった、けどここで会えて嬉しい!」
「⋯⋯⋯⋯」
いけねぇ!あまりにも美しい笑顔に言葉を失ってしまった!これはラブコメの主人公としてあるまじき行為だ。
「あの時、車に轢かれそうになった私を助けてくれてありがとうございます」
ん、車?そこである嫌な予感がした。その予感は的中し、莉子さんは俺の横を通り過ぎて俺の後ろの席で歩みを止めた。
「いいよ別に、当然のことをしただけだし」
「当然のことなんかじゃありませんよ、すごいことです」
「そんな褒めるなよ、照れるだろ」
「ふふっ可愛いい人ですね」
なんだ、何が起こっている。何故俺の後ろで会話が進んでいるのだ。主人公である俺を差し置いて!
「名前はなんというのですか?」
「七条蓮」
「蓮くん!これからよろしくね」
「あぁよろしく」
莉子さんが握手を求め蓮がそれに応じる。なんだ、なんでラブコメが俺の目の前で、俺じゃないやつが体現してるんだ。⋯⋯そうか、俺にはまた別のラブコメが待っているのか。なーんだ、それならそうと早く言ってくれよ。
「はっはっはっはっ」
そう考えると気が楽だわ、笑う余裕も出来る。
「来栖!お前さっきから何言ってんの!?」
「ん?」
隣の席のいつも一緒にいる
ふっ、やはり俺は主人公だな。
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