第44話 畑での事件
その日のお昼もまた、ダン親子の畑の種蒔きをタロ達を手伝っていた。
その間、ダンの娘エマがティアと仲良くなろうと遊ぶように誘うが、ティアはタロの傍から離れない。
エマは残念そうにすると、畑から離れた切り株の上にチョコンと座って休憩した。
「ティア、遊んであげないのか?」
タロが種蒔き作業の手を止めて、近くで見ているティアに聞く。
「ティア、タロの傍にいる」
ティアは頑としてエマと遊ぼうとしないから困ったものだ。
ネイもその光景に苦笑すると傍にいたダンの妻ニキに謝る。
「うちのティアさんが頑固ですみません。娘のエマさんが気を遣ってあんなに誘ってくれているのに……」
「いいえ。うちの子はティアちゃんといるだけで楽しそうなので。ふふふ」
ニキが気を遣ってそう答えていると、いつの間にかその娘のエマの傍に一人の男が立っていた。
知らない男だ。
「どちら様ですか?」
タロが、村の住人ではないと思われるその男に声を掛けた。
「タロは貴様だな?」
男はそう言うと、エマを抱き上げた。
そして続ける。
「この娘の命が惜しければ、タロ、貴様一人だけこちらに来い」
男の手はいつの間にか短剣が握られていて、エマにその刃先が向けられていた。
「貴様!」
一番近くにいたダラスが、その男に駆け寄ろうとする。
「おっと、動くな。こちらの目的はそのタロという男だ。お前らも動くとこの娘の命はない」
短剣を突き付けられたエマは驚きと恐怖で体を硬直させて身動きが取れなくなっていた。
だが、泣きわめいたりしないだけ、偉いくらいだ。
「……僕がそっちに行けば、その子を解放してくれるのかい?」
タロは、相手の目的がわからないから慎重に、だが、交渉はしっかりと行った。
「お前が抵抗せずにこちらにくればな。下手な事はするなよ。もし、ヘタな動きを見せたら、他の人間にも危害が及ぶぞ?」
男がそう答えると、茂みの中から違う男達が二人出て来た。
その二人は以前、タロを村の出入り口で見ていた二人組だった。
その二人組はティアとダンの妻のニキの傍に近づいていく。
「ティアさんに近づくな!」
そう言うとティアの傍に近づこうとした男はネイが容赦なく殴り飛ばしていた。
男は、その一撃で数メートル先に吹き飛び、白目をむいて気を失っていた。
「糞エルフ! この娘がどうなってもいいのか!」
エマを人質に取っている男が、短剣の刃先をエマの首元に近づけて恫喝した。
「ネイ! ティアを頼むが、その辺で我慢して」
「──わかりました……」
タロの言葉にネイはティアの傍に付いた。
もう一人の男はダンの妻ニキを人質に取る。
「妻と子に手を出すな!」
ダンが悲痛な声を上げた。
「何なんだ貴様ら。タロが目的なら関係ない人を巻き込むな」
ダラスがそう言いながら、エマを助けようと少し近づいた。
「動くなと言ったよな? こっちは人質が二人もいるんだ。下手な事はしない方が良いぞ?」
男はそう言うと、もう一人の男に視線で合図を送った。
男は頷くとダンの妻ニキの腕に浅い切り傷を付けた。
「きゃぁ!」
ニキは思わず悲鳴を上げる。
「待て! 僕がそっちに行くから傷つけるな!」
タロは、先程からずっとこの男達に違和感を感じていた。
何かがおかしい。
もちろん、自分の事が目的なのはわかったが、何か引っ掛かるのだ。
タロは何かの違和感を感じながらエマを人質に取っている男に近づいていく。
「よし、そこで止まって、後ろを向け。それから後ろ向きのままこちらに近づいて来い」
「タロ、駄目! この人達、タロの命狙ってる!」
ティアが忠告する。
もちろん、そんな事だろうという事はわかっている。
……だがティアがいまさらそんな事を言うのか?
タロは何か大事な事を見落としていると思いながらも、男の言う通り後ろ向きに近づいて行った。
あと一歩のところまで下がると、エマを人質に取っている男が、
「楽な仕事だぜ!」
と、手にしていた短剣をエマから外し、タロの後頭部に突き立てようとした。
だが、タロはその動きを読んでいた。
振り向きざまに右手でその短剣を握る右手首を掴むと捻り上げエマから離そうと地面に投げつける。
「ぎゃっ!」
地面にかなり強く叩きつけられた男は短い悲鳴を上げると気を失った。
「貴様! この女が死んでもいいのか!」
もう一人の男が、ダンの妻ニキに突き付ける短剣の先をニキの首筋に当てた時だった。
タロの動きに男が気を取られている間に、ネイが一瞬で近づいていたのだ。
ニキに突き付けられていた短剣を握る右手を、ネイは掴むとタロと同じようにもの凄い力で捻り上げ、そのまま地面に叩きつけた。
この男も短く「ぐぇっ!」と悲鳴を上げると気を失うのであった。
「ナイス、ネイ。お陰で助かったよ。──エマちゃん、大丈夫かい?」
タロが咄嗟の判断で動いてくれたネイを褒めると、怯えて固まったままであろうエマを心配した。
エマはタロの足にしがみ付いた。
「怖かったよね。ごめん」
タロがエマの頭を撫でようとした時だった。
エマが抱きついた足に激痛が走る。
「!」
痛みのあまりタロは思わずエマを突き飛ばした。
エマはその拍子で地面に倒れるが、金属音と共に禍々しい短剣がエマの足元に転がった。
タロの足には刺し傷が出来て沢山出血している。
「な、なぜ……!?」
タロは激痛と状況の理解が追いつかず、エマに問うのであった。
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