第43話 移住者家族

 村の若い連中が街への出稼ぎから帰ってきて、アシナの村にも活気が戻って来た。


 それと時を同じくして、他所からの移住者も訪れた。


 移住者と言ってもドラゴニア王国方面から、農家出身だという家族連れと鍛冶職人だという二人の男達五人だけではあるが、辺境の村としてはそれだけでもかなりありがたい。


 農家出身の家族連れは、村長の紹介で村内の家と、タロ達の住む家の近くの広い畑を借りる事にしたようで、タロの家にも家族で挨拶に来た。


「これから顔を合わせる機会も多くあると思うのでよろしくお願いします」


 タロは笑顔で応対すると、「ティア、ちょっとおいで!」と呼び寄せた。


「なあに? タロ」


「うちの畑の近くに畑を借りたそうだから、挨拶しておきな」


「ティア、四歳! よろしくおねがいしました」


「お願いします、な?」


「それ」


 タロとティアが掛け合いをすると、


「はははっ! 楽しいお嬢さんですね。うちの子も四歳なので遊び相手になってくれると助かりますよ」


 農家の家族は、夫がダン、妻のニキ、そして娘のエマを名乗る三人親子だった。


「ええ、うちもそれは助かります。ティア、遊び相手が出来たぞ?」


「……うん」


 ティアの反応はいまいちよくない。


「私はエマよ。ティアちゃん、よろしくね」


 四歳にしてはしっかりした口調で、エマは挨拶した。


「……よろしくです」


 ティアどうやら自分と同じ年齢の子に会うのが初めてで緊張しているようだ。


「ティアは緊張しているようです。これからよろしくお願いします。あ、それと、──うちには女性エルフのネイと友人のダラスも住んでいますのでそちらもよろしくお願いします」


「ほう!エルフの奥さんですか!」


 農家のダンが軽く驚く。


「あ、いや、妻では──」


 タロが否定しかけたところに、ネイが顔を出した。


 ダンの娘のエマが初めてエルフを見るのか顔を輝かせると「わあぁー!綺麗!」と、褒めた。


 そんなネイは、ダン親子に軽く会釈すると奥に引っ込んだ。


 こっちは綺麗と言われて照れたのかもしれない。


「おーい! ダラス。お客さんだから挨拶して」


 玄関の外をダラスが歩いていたので、タロが声を掛けた。


「お客? ──どうも。──ところで何のお客だい?」


 タロに一から説明を受けたダラスは、


「ほう。ドラゴニアのどこの辺りから来たんだい?」


 と気さくに話しかけた。


「私達は、ダンカン子爵領の方からやってきました」


「あそこは今、荒れているだろ?」


 ダラスが同郷とわかり、名乗りはしないが聞き返した。


「……はい。だから、この際、国外に出ようと逃げて来たんです」


「そうか……、歓迎するぜ。何か困った事があったら、俺に言ってくれ。──そうだ、ダンカン子爵領のどこに住んでたんだい?」


 ダラスは同郷の誼でここでの新生活の手助けを名乗り出るのであった。


「私達はダンカン子爵領のバカヤ村の出身です」


 ダン親子はもう一度、タロに挨拶すると村の自宅へと戻っていくのであった。


 タロとティアがそれを見送っていると、ダラスが傍で、首を傾げていた。


「どうしたのダラス?」


「うん? いや、何でもない。ちょっと考え事をしていた」


「そう? ならいいけど、同郷の人なら君の正体気づかれないようにしないとね」


「やべぇ! ……それ考えてなかったぜ。まぁ、今は髪も整え、髭も剃ったからそう気づかれる事も無いと思うが、一応、気を付けておくよ」


 ダラスはすっかりここの生活に馴染んで、以前の事を失念していたようだ。


「ネイ。そろそろ、僕達家族以外にも愛想よくしないと馴染めないよ?」


 タロは愛想が無かったネイを少し、注意した。


「いや、そんなつもりはなかったのですが、何か……、うーん」


 言葉に表現できないのか考え込むと答えに戸惑うのであった。


「ティア、あの子苦手……」


 意外な事にしっかりしてそうなダンの娘エマがティアは苦手だとういう。


 いつも誰に対してもすぐ仲良くなるティアにしては珍しい反応であった。


「そうなのか? しっかりした良い子だと思ったけどなぁ」


 タロが好意的な感想を漏らすと、


「きっと、タロさんを取られたら嫌だと思ったのではないですか?」


 とネイがティアの代わりとばかりに答えた。


「はははっ! ティアは僕の大切な相棒だぞ? ティアが一番に決まってるじゃないか!」


 タロはティアを抱きかかえると、軽く一回転する。


「きゃっ、きゃっ!」


 ティアが楽しそうに声を上げる。


 それで、ダン親子の話は終了し、この日は何事も無く終わるのであった。


 それからダン親子は荒れ果てた畑の開墾を始めた。


 タロも最初が大変なのがわかったから、総出でそのお手伝いをする事にした。


 本当なら、魔法を使って一気に終わらせてもいいが、あまりやり過ぎると驚かれると思って普通に鎌で草刈りをし、鍬で土を耕し肥料を入れる作業を行うのであった。


 数日間、その作業をやると、多少生きた畑になったように見える。


「タロさん、ネイさん、ダラスさん、ティアちゃん。ありがとうございます。これで少し遅いですが種を蒔いて多少の収穫は出来そうです。なんとお礼を言っていいのか……」


 ダンは妻ニキと一緒に頭を下げた。


 娘のエマはティアにハイタッチを求めるも避けられてしょんぼりしていた。


「いえ、困った時はお互い様。助け合いですよ。もし、うちが困った時はその時助けていただければ十分です」


 タロはそう答えながら、ティアが未だにダンの娘エマと仲良くなれない事に苦笑するのであった。

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