第42話 帰って来た若者達

 タロ達が村の貴重な働き手として活躍する日々が一か月も経つと、街に出稼ぎに行っていた村の若い連中が、帰って来た。


 中には街で良い仲になったのか女連れの者もいる。


 すっかり、街に染まった者もいれば、街に適応できずにやっと戻れたと安堵する者もいた。


 皆に共通する事は、それなりに稼いだ事だろうか?


 しかし、中には街での女遊びにハマってしまい、その日の稼ぎを使い込み、帰る日まで貯金できなかった者もいた。


「ちょっと! 結婚資金稼いでくるって言ったじゃない!」


「ご、ごめん……。俺とは別れてくれ!」


「え? どういう事よ!」


 という、破局する事になりそうなカップルもいれば、


「街は怖いところだよ……。やっぱり村が一番だわ……! 父ちゃん、俺、稼業継ぐよ!」


 と街でどんな目に遭ったのか、改心した素振りを見せる者もいた。


 出迎えた村人達と出稼ぎに行っていた若い連中との間で、いろんなドラマが村の出入り口付近では展開されていた。


「タロ、ケッコンシキンって何? あの女の人、怒ったり泣いたりしてるよ?」


 丁度村に来ていたタロ達は修羅場を目撃する事になっていた。


「あはは……。──結婚資金ていうのは、恋人同士が特別仲良くなる為に必要なお金の事だよ」


 タロは、修羅場からティアの視線を遮るように立つと、ちゃんと説明するのであった。


「そこはちゃんと説明するのかよ」


 ダラスがすっかり打ち解けたタロにツッコミを横から入れる。


「ふーん……。──お金大事だね!」


 ティアはちゃんと理解したのか大きく頷く。


「最低な男ですね。きっと街に好きな女でも出来たのでしょう」


 ネイは、破局カップルを見て呆れた。


「出会いはどこに転がっているかわからないからね……。ってなんで僕が擁護しないといけないの!」


 なぜか最低男の擁護をするという展開になっている事に自分でツッコミを入れるのであった。


 そんな中、一人の街帰りの若者がネイの方にずんずんと歩いて来た。


「ね、ネイさん。これを受け取って下さい!」


 若い者の手には、小さい緑色の宝石が付いてある首飾りが握られていた。


 街帰りの若者達はその若者がネイに首飾りを渡す事を知っていたのか、やんやとはやし立て始めた。


「?」


 ネイは状況が理解出来ずに、タロに視線を送った。


「──彼はネイに告白をしているんだよ」


 タロはネイの耳元でつぶやいた。


「!? 私、この彼、知らないですよ……!?」


 ネイは一層戸惑うとタロに助けを求めて袖を掴んだ。


「え? 俺の事覚えてないですか!? 以前、俺が落とした腰布を拾ってくれたじゃないですか!」


 ネイの言葉にショック受けた若者は必死に出会いの時の事を説明する。


 きっと彼には運命の出会いだと思ったのだろう。


 ネイは、美人だし、スタイルもいい。


 そんなエルフが落とした物を拾ってくれただけで、田舎の純朴な若者が心を鷲掴みにされても仕方がないのかもしれない。


「……ああ。タロさんが拾った腰布を、私が代わりに渡した時の事ですね?」


 ネイにとっては、タロの手間を省く為に自分が代わりに渡しただけなので、すっかり記憶の彼方に追いやっていたものを思い出した。


「え!?」


「だから、拾ったのはタロさんですから、タロさんに渡して下さい」


 ネイが、タロの後ろに隠れるように逃げると、そう答えるのであった。


「そ、そんな……」


 ものの見事に玉砕した若者はその場に崩れ落ちる。


 そこへ告白する事を知っていた若者達が駆け寄って励まし始める。


 失恋も青春だよ、フラれて強くなれ!


 タロは心の中で若者に声援を送るのであった。


「ところで、タロ。あの男達、あんたを見ているようだが知り合いか?」


 ダラスが帰って来た若者の間に、鋭い目つきの人物が二人、こちらを見ている事に気づいた。


「うん? ……この村の人じゃないみたいだね?」


 ダラスの指摘でタロもそれに気づいた。


 タロが、そちらに目を向けると、その二人の男は目を逸らして二人で話始めている。


「ティア、あの人達、イヤな感じする」


 ティアが何かを感じたのかタロに警告した。


「……ネイ。ティアの傍から離れないで。ダラス、他には気になる人いる?」


「今のところ二人だけだ。何か心当たりあるのか?」


「うーん……。あると言えばあるけど……。それはみんなも一緒でしょ?」


 ダラスの言葉をはぐらかすかのように答えた。


「まぁな。タロもあるのなら、お互い気を付けた方が良さそうだ。あんたやネイがとんでもない化物なのは知っているから、心配するとすれば自分の身なんだが、あいつらが見ていたのは多分あんただぜ」


 ダラスは改めてタロに警告した。


 盗賊稼業をやっていた身としては、警戒心も強いし、その手の勘は鋭いから自信があった。


「うん。気を付けるよ」


 タロにとって身に覚えと言えば、アマノ侯爵家絡みくらいだが、あっちはこちらと絡みたくないはずである。


 だからこそ、自分を死んだ事にして手切れ金を渡し、国外に追放したのだ。


 いまさら探す目的はないはずである。


 タロはそこまで考えるとやはり、誰か別の人を見ていたのではとも思うのであった。


 そして、ふと二人の男のいた場所に視線を戻して見ると、男達はいなくなっていた。


「ダラス、男達はどこに行った?」


「村の外に出て行ったぞ」


「……とりあえず、家に戻ろう。顔は覚えたし、気を付けていれば大丈夫だよ、きっと」


 タロはティアの手を取ると、四人で村外れの自宅へと帰っていくのであった。

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