第41話 牧人のお手伝い
タロは材木屋ダッチのお手伝いを皮切りに、村の貴重な若い衆の一人として仕事を頼まれるようになっていた。
一見華奢な姿のタロだから、村人達はどちらかというとそのタロの元で寝泊まりする様になった体格の良いダラスの方を頼って仕事を依頼する者が多かったのだが、タロどころか非力で有名なエルフの女性ネイも力仕事に向いている事がわかってタロ達は重宝された。
「今日もありがとうね。村の他の若い連中はまだ、街に行ったっきり帰ってこないから本当に助かるよ」
この日は、牧人のお手伝いである。
牧人とは家畜などの放牧を任される人の事だ。
その中で、今回は羊の毛を刈る為に放牧している牧から一頭一頭羊を連れて来てひっくり返し、押えるところまでやらされた。
タロとネイは全然苦にならずに村人に言われるがまま、ひょいひょいとこなしていたが、ダラスはこの化物のような二人の体力に比べ、まともな人間であったから、羊を抑え込むのに結構な体力を使い、肩で息をするのであった。
「……二人共、とんでもないぞ……! 俺だって体力には自信があったのに……!」
華奢なタロ、非力なエルフの印象とは裏腹な二人に張り切っていたダラスはヘロヘロであった。
「はははっ! あんたダラスさんって言ったかい? あんたでも村の若い連中よりは十分体力あるよ。毛を刈る作業は普段数日は掛かるからな。それくらい大変なんだ。それをこの人数でわずか一日でこれだけやれている事がおかしいんだよ」
牧人はタロに抑え込まれた羊の毛をハサミで刈りながら、ダラスを褒めるのであった。
その間、ティアは子羊と戯れていた。
「羊さん、良い子!」
羊達もティアには警戒せず、その周囲に集まっていた。
「お嬢ちゃんは人気者だな」
牧人は笑って指摘した。
「次の羊さん、こっち!」
タロの抑え込んでいる羊の毛が刈り終わると、そのティアがまだ刈り終えていない羊を手招きする。
するとそれに応えるように近づいて来た。
「おお!?」
牧人は驚いて羊を凝視する。
羊はティアの手招きでティアの傍まで来ると大人しくその場に転がった。
それをタロが前足と後ろ足を掴んで牧人の前に運んでくる。
「あのお嬢ちゃんは羊と会話でもできるのかい!?」
牧人はハサミの手を休め、今の信じられない様な状況に唖然とした。
「きっと羊の本能で従っているんですよ」
タロは冗談っぽく言った。
だが、半ばそれは本気でもある。
ティアは見た目は四歳の幼女だが気高き銀色の竜の化身である。
羊にとっては全ての生物の頂点とも言えるドラゴンに歯向かう余地はなく、ましてや人に飼われている身として命令されたら従うしかないのかもしれない。
つまり、食べられてもしょうがないという諦めの境地だ。
「こいつは驚いた……! 牧畜ギルドに登録した方が良いぞ? どんな方法なのか知らないが、あれだけ言う事を聞かせる事が出来るんだ。きっとその技術は重宝されるはずだ」
牧人はティアが何かの技術で従わせていると思ったようだ。
確かに目の前で目撃した人間にしたら、魔法か何かの技術を用いた方法以外には考えられないだろう。
「なんだよ。そんな事が出来るなら、一頭一頭追いかけ回していた俺が馬鹿みたいじゃないか」
ダラスは、もう無理とばかりに、両手を上げるとその場に寝転がった。
「ダラス、タロさんとティアさんが働いているのだから手を休めるな」
ネイは、そんなダラスを注意する。
ネイは基本、タロとティアには甘い。
かなり甘すぎる。
だが、その反面、ダラスには甘くなかった。
何事も、タロとティアが優先の中で、半人前のダラスには厳しいくらいである。
元盗賊であり、タロからお金を巻き上げたと聞いて厳しく接しているようだ。
だが、ダラスは実のところ、このネイの態度がありがたかった。
いくら領民の為とは言え、盗賊行為をやっていたのは事実であり、それが自分に跳ね返って来て今の自分があるのだ。
タロが助けてくれなかったら、そのまま死んでいただろうし、拾ってもらって家に住まわせてもらっている事もありがたいが、タロやティアが優しすぎるからダラスは罪悪もあったのだ。
だが、ネイはそんな自分をそういう態度で扱ってくれる。
ダラスはネイの態度で自分の立場をちゃんと自覚できるのであった。
「へいへい。相変わらず厳しい姉ちゃんだな」
ダラスはネイの態度に表面上は、軽口を叩いて起き上がる。
そして、毛を刈っていない羊を追いかけ回すのであった。
「今日は助かったよ。まさか一日で終わるとはな……、助かったよ。報酬も色付けておいたからまた、来年頼むわ」
牧人は笑ってタロ達に手を振る。
それにタロに抱っこされたティアが答えて手を振り返した。
「バイバイ羊さん達」
ティアがそう言うと、羊が一斉に「めぇ~」と鳴く。
ここまで来ると最早、立派な芸である。
牧人も、タロ達もその光景に思わず笑ってしまうのであった。
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