第40話 王都にて・3

 アマノ侯爵は宰相復帰の為に自領に引っ込んで四方に賄賂をばら撒き復帰を目指して活動していた。


「父上。不味い事が!」


 長男であるアレンが血相を変えて執務室に飛び込んで来た。


「なんだ? 私は忙しい。王家に私がいかに使える人間か再度、訴えなければいけないのだからな」


「その王家が我がアマノ侯爵家の周辺を調べているようなのです」


「何だと!? どの事を調べているのだ!?」


 アマノ侯爵は知られてはいけない事が多すぎて、どの事を調べられているのか見当がつかなかった。


「どうやら、スサの死因に不明な点があると王家の者が調べていると、こちらの密偵が知らせてくれました」


「なんだと!? 温情で命は助けてやったのに、ここに来てまだ、足を引っ張るのかあいつは!」


「どうしますか、父上?」


「……奴は今、どうしている?」


「わかりません。ただ、クサナギ王国方面に向かったところまでは、確認しています」


「……生きている事が王家に気づかれたら、我がアマノ侯爵家は本当に終わりだぞ……。仕方ない……、アレンよ、王家に気づかれる前にスサを見つけ出して殺させよ。国内なら殺して問題になると厄介だから見逃していたのだが、国外にいるのなら都合がいい。……そうだ。我がアマノ家に伝わる宝剣を渡すからそれで確実に仕留めよ」


「宝剣? そんなものがあるのですか?」


「何でも伝説のドラゴンの牙から作られた『竜の守人殺し』という名の短剣だ。その名の通り、『竜の守人』が相手ならかすり傷でも死に至らせるという。スサは一応『竜の守人』の紋章持ち。伝説の通りならその短剣で確実に殺せるはずだ」


「……わかりました。うちで使っている探し屋と、あとは暗殺ギルドに報酬を払ってクサナギ国に送り込みますから、その宝剣とやらも渡しておきましょう」


「確実にだぞ? 王家にさえ知られなければ、どうという事は無いのだからな。ところでカインはどうした? まだ、あいつは王都で遊び惚けているのか?」


 アマノ侯爵は、スサの件はこれで解決ばかりに、次男坊の最近の動向を気にした。


 今は大事な時である。


 息子にこれ以上足を引っ張られたくなかったのだ。


「カインの奴、王都での人脈を少しでも広げようと、色んな人間と会ってお金をばら撒いているようですが?」


「何? そんなお金、どこから出ている?」


「え? 父上が渡したのではないですか?」


 長男アレンは父親が次男を可愛がってお金を湯水の如く渡していると思っていたのだ。


「私は何も知らんぞ? 月の小遣い以外、最近は渡しておらん。そう言えば二か月前、大金を貸して欲しいと言ってきたが、使い道を説明しないから却下した。それからは金の無心はしてきていないな……」


 アマノ侯爵は腑に落ちないという感じでカインのお金の出処を気にした。


「……今は王家がこちらに探りを入れて来ている最中。カインの言動で王家に対してあまり良くない印象を与えるのは不味いですよね?」


「当然だ! カインにはお前からきつく注意しておけ!」


 アマノ侯爵は自分で注意しておけば良かったと後で後悔する事になるのだが、この時は夢にも思わないでいた。


 まさか、息子がこの国を狙っている隣国の大使と何度も会っているとは……。



「──以上が、現在、調べ上げた内容となっています」


 王女の部下がアマノ侯爵家とスサについての報告を終えた。


「アマノ侯爵は、王太子であるお兄様のところにもお金を持参して面会を求めて来ていたわね」


 オリヴィア王女は部下の報告を確認するように、自分が掴んだ情報と照らし合わせた。


「王太子様だけでなく、他の有力貴族、官吏にまでお金をばら撒いているようです。その目的は表向きでは宰相への復帰となっていますが、先程の報告通り、長男アレンは裏社会の人間と接触しているのを先日、確認しました。次男のカインの動きも相当怪しいですし、これらを照らし合わせると、宰相の任を降ろされた事を逆恨みして、国家転覆を狙っているのではないかと……」


「まだ、結論を出すのは早いわ。でも……、今のところはその読みが一番可能性としては高いわね」


「そう言えば、長男アインが接触した裏社会の人間中に有名な探し屋が混ざっていました」


「探し屋?」


「はい。失せもの、失踪者、逃亡犯なんでも探し出すというその界隈では有名な業者です」


「……アマノ家が何かを探している……」


 オリヴィア王女は部下の言葉に考え込む。


「ただし、それはもの探しではなさそうです」


「どういうこと?」


「接触したリストには暗殺ギルドの人間も含まれています」


「! ──それはつまり、誰か失踪ないし、逃亡している人物を見つけ出して殺そうとしているという事ね?」


「──はい。そういう可能性もあるかと思いますが、それ以外の可能性も十分あるかと……」


「スサが生きていて、今になって邪魔になり殺そうとしている可能性……。その他にも何かあるの?」


「アマノ侯爵家はこれまで表沙汰に出来ないような事も色々行ってきております。それら全ての揉み消しに躍起になっているとも思えますので、証人を消すという可能性も大いにあります」


「……そうね。その可能性の方があるわね……。わかったわ、報告ご苦労様。また引き続き調べて頂戴」


 オリヴィア王女はそう言うと部下を下がらせた。


「……もしかしたらスサが生きている可能性も……」


 オリヴィア王女はそう漏らすと、少しの可能性に期待するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る