第38話 材木屋のお手伝い
盗賊討伐から一か月が経っていた。
タロは日課となっている畑仕事を朝からティアとネイの三人で行い、裏庭に作ったウッドデッキの日陰でお昼休憩を取っていた。
「タロいるかー!?」
表から聞いた事がある声が聞こえてきた。
「はーい! ダッチさんですか?」
タロは表に聞こえる大きな声で返事する。
「裏庭か? ──そっち行くわ!」
ダッチは応答すると、家を回って裏庭に来た。
手には斧と、ノコギリ、あとは三角形の木材を持っている。
「ティアちゃんもネイさんも元気かい?」
ダッチは二人に挨拶すると続けた。
「今日はタロに仕事を依頼したいんだが、いいか?」
「仕事、ですか?」
「ああ、お前、何でも屋するって言ってただろう? 俺は材木屋だ。この時期になると森に入って間伐がてら伐採したり、それを玉切り(利用しやすい長さの丸太にする事)するんだ。そしてそれを貯木場に運ぶ。その仕事を手伝ってくれないか? タロは魔法収納バッグ持っているし、盗賊を捻り倒してしまうくらい力もあるんだろう? ちゃんと給金も払うから頼めないか?」
「ティア、ネイ。二人はどうする?」
「ティアも手伝う!」
ティアは何を手伝う気なのか真っ先に手を上げた。
「もちろん、私も手伝いますよ」
ネイは脳筋系エルフだから、力仕事はうってつけだ。
「おいおい。女子供に力仕事やらせたら俺が村中で笑われちまうぞ?」
ダッチは子供のティアは問題外として、ネイは村でも噂になっている美女であったから、嫉妬から、笑われる事、普通に怒られる事など色んな意味で心配するのであった。
「大丈夫ですよ。ネイはこう見えて力持ちなのでお役に立てると思います」
「そうなのか? ……だがなぁ。エルフって種族は力仕事には向いていないんだろう? それくらいは俺も知っているぜ? でかい木ってのは重いし、危険も付き纏う。ましてや森の中での作業だ。魔物に遭遇する可能性もある。怪我をされたらマジで俺が村の若い男達の恨みを買っちまうぞ?」
「はははっ、その心配には及びませんよ。ティアのお守りも頼めるくらいネイは頼もしいので」
タロは言葉通りの意味でネイを評価した。
ネイは褒められたので照れ笑いを浮かべている。
そんな光景を見て、ラブラブだなと思ったダッチは、「村の若い連中にチャンスは無かったな」と口にするのであった。
「? ──そう言えば、そんな力仕事だと普通は村の若い人達に声を掛けるんじゃないんですか?」
ダッチの言葉に反応してタロは疑問に思った事を聞いてみた。
「村の若い連中はこっちの、はした金の日雇い仕事より、領主様のところの城壁修理の為の石運びが良いんだとよ」
「ああ! そう言えば、うちにも誘いの話ありましたね」
「珍しく報酬がいいから、若い連中は街にも行けて一石二鳥だと、やる気だして山の麓に石を切り出しに行ってるよ。馬鹿な連中さ、こっちの方が地元の森も守れて村に貢献出来るが、あっちは移動時間も拘束される分、長い目で見たらこっちの方が得なのにな」
「それ、言わなかったんですか?」
ダッチの愚痴にタロは苦笑すると聞いてみた。
「こんな片田舎の学校がない辺境の村で、あいつらにそんな計算できると思うか?」
ダッチも苦笑いすると溜息を吐くのであった。
「……なるほど。わかりました。僕達が協力しますよ。村に貢献できるのは大きいですし」
「おお! ありがとうな! 本来なら、若い連中を五、六人は雇わないと仕事にならないんだが、タロなら魔法収納バッグがあるから一人で済む。俺の懐も寂しいから本当に助かるよ!」
ダッチの本音が垣間見えたところで、一行は森へと向かうのであった。
森に到着するとダッチは早速、斧をタロに投げて渡した。
「お前はその木を切ってくれ。俺は、こっちを切る。──あ、木の切り方は知っているか?」
「そのくらいはわかりますよ。『受け口』と『追い口』あと『つる』でしたっけ?」
「おお、その通りだ。よく知ってたな。倒す方向の切り口が『受け口』。その反対側の切り口が『追い口』だ。その間に出来る幅が『つる』。そこまで知っていたら大丈夫そうだな。切り倒す方向は北向きに統一しておこう。そうじゃないと倒す方向バラバラだと怪我するからな」
「わかりました!」
タロはすぐに木の傍に行くと、斧を脇に置いた。
「? 斧で切らないでどうするんだ?」
ダッチはタロに答える。
「ぼく、風魔法が使えますのでこっちで切ります」
タロはそう答えると、右手に魔法を集中させる。
ダッチが驚いて目を凝らしてタロの右手を見ると、高速で空気を切る音と風の渦がその周りに見えた。
「こいつは驚いた!」
ダッチが驚く中、タロは木にその右手を当てると、木くずが勢いよく出ながら『受け口』ができていくのであった。
タロは短時間で、『受け口』、『追い口』部分を風魔法で切ると、『追い口』部分にダッチが持ち込んでいた三角形の木材『くさび』を打ち込む。
ここまでの時間、わずか五分である。
タロの担当した巨木は、くさびを打ち込むと、バキバキという『つる』が折れる音を立てながら北側に綺麗に倒れるのであった。
「まいったな……。俺の仕事が無くなっちまうぜ」
あまりの手際の良さにダッチは笑う。
その後は、タロが切った方が早いという事になり、次々と必要な木を切り出していった。
その間にネイが切り倒した木を斧で枝を切り落とし、『玉切り』にしていく。
ネイはエルフだが風魔法は苦手なので、華奢に見えるその腕で斧を振るっていく。
問題はティアだ。
まだ、四歳の小さい娘が、倒れた巨木を手にした見た事もない魔道具で丸太にしていく様は目の前にしても信じられない光景であった。
「おいおい……、ティアちゃんの手にしている道具はなんだ……!?」
その道具は、タロがティアから教えてもらった魔法陣を組み込んだ試作魔道具であった。
風魔法式ノコギリといったところであろうか?
ダッチは、エルフの腕力と見た事もない道具を操る四歳の幼女二人の働きに呆れるとお手上げ状態になるのであった。
「タロ、誰か倒れてる……」
丸太に切り出していたティアが、木の陰に人がいるのを発見した。
タロはその報告にすぐに駆け寄る。
「この人は……」
タロは出血して倒れている男性に見覚えがった。
「どうした?」
ダッチも駆け寄って来た。
「こいつはいけねぇ。誰か治癒魔法を使えるか?」
「僕が」
タロはそう答えると、出血して気を失っている男に対して、治癒魔法を詠唱し始めるのであった。
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